OCEANS

SHARE

  1. トップ
  2. 時計
  3. 【前編】小さな時計の内側に大きく広がる“機械の世界”とツナガル

2018.12.17

時計

【前編】小さな時計の内側に大きく広がる“機械の世界”とツナガル

近年、人気のある時計のスタイルがスケルトンだ。文字盤を省き、内蔵のムーブメントを露わにする。そこにあるのは無機質な機械だが、それは時計のアイデンティティでもある。むき出しになった機械の世界にツナガルことで、その本質に触れるのだ。
時計の役割は、時間を計り、示すことであり、文字盤の内側に秘められた機械は、本来その裏方にすぎない。そして文字盤がフェイスといわれるように、流行を取り入れたり、鮮やかに装飾を施して、女性がメイクをするがごとく、いかようにも“化ける”ことが可能だ。
これに対して、機械であるムーブメントは基礎であり、スケルトンはいわば“すっぴん”だ。自社開発生産であれば、なおさらそのブランドの技術力や理念がそのまま表れる。そこに真似やごまかしは利かない。だからこそ唯一無二のオリジナリティとなり、その自信を持ってして素顔を晒す。それがスケルトンということである。

シャネルの「ボーイフレンド スケルトン」は、そんな素顔美人である。最新の自社ムーブメントは、輪が連なるデザインから着想され、その美しさを崩すことなく、設計された。もちろん精度や実用性、耐久性に妥協はない。そうしたブランドの美意識に目を奪われるのだ。
スケルトンは、一般的な時計に比べて決して時間を読み取りやすいとはいえない。だが気付くだろう。時間を見るのではなく、時計を眺めていることを。それが機械の世界とツナガルということなのだ。
ムーブメントって“歯車のツナガリ”だ!
 

そもそも機械式時計とは歯車と歯車が噛み合い、ツナガルことで時を刻む。ということで、その基礎知識を簡単に解説。機械式時計の構造は大きく4つに分かれる。
1つは動力源となるゼンマイを内蔵した香箱(A)、そして2つ目は動力を伝達するための歯車の輪列で、2番車(B)、3番車(C)、4番車(D)からなる。3つ目が歯車の回転速度を調整するための調速機であるテンプとヒゲゼンマイ(G)。そして両者をつなぎ、歯車の動きを調整するガンギ車(E)とアンクル(F)の脱進機という4つだ。
作動原理は、ゼンマイの回転動力が輪列を通じてテンプに伝わり、ヒゲゼンマイとによる回転振動の等時性が、脱進機を介して、一定のリズムを持った規則正しい回転運動として輪列に戻される。その一連の運動が4番車に付けられた秒針、2番車の分針として示される。
 

CHANEL シャネル
ボーイフレンド スケルトン
“美しさは多くを語らない”の理念が生んだ美しき連弧

K18ベージュゴールドケース、縦37×横28.6mm、手巻き。476万2500円/シャネル 0120-525-519
自社ムーブメントの3作目にして、開発に3年を要した初のスケルトン仕様のキャリバー 3.を搭載する。通常は同心円状に配列される輪列を縦に並べ、連なる輪のオープンワークが深い奥行きに浮き上がるように演出する。
さらにこれを際立たせるのが、「ボーイフレンド」の八角形ケースで、ポリッシュ仕上げのベージュゴールドはまるで額縁を思わせ、その高貴なコントラストを際立たせている。“美しさは多くを語らない”という理念のもと、これまでもムーブメントのパーツ製作を担ってきたローマン・ゴティエが関わり、シャネルのウォッチメイキングの進化を象徴する。
 

PATEK PHILIPPE パテック フィリップ
カラトラバ・スケルトン
クラシックな手彫りの美しさに輝きを増すモダニティ

K18ローズゴールドケース、39mm径、自動巻き。1075万円/パテック フィリップ ジャパン 03-3255-8109
「カラトラバ・スケルトン」に搭載する名作キャリバー240の誕生40周年に当たる昨年、こちらのローズゴールド仕様が加わった。地板と受けには精細な透かし彫りが施され、さらに配される構成パーツにも130時間を要する、唐草や渦巻きの見事な模様が装飾される。
また香箱にはブランドを象徴するカラトラバ十字を掲げ、王道ブランドに相応しいスケルトンの美観を表現している。だがそれをクラシックな復古主義に終わらせず、マイクロローターを搭載し、紫青色に輝くシリコン製ヒゲゼンマイといった現代の技術で磨きをかけているのだ。
 

ARNOLD & SON アーノルド&サン
タイム・ピラミッド-ブラック エディション
透明なフェイスにそびえ立つ、精緻なピラミッド

世界限定50本。SS(ブラックDLC加工)ケース、44.6mm径、手巻き。344万円/ブローバ 0570-03-1390
両面サファイアクリスタルのフェイスに浮かび上がる自社ムーブメントは、下方にオフセットした時分針のインダイヤルを中心に、天頂にテンプを掲げる左右対称のデザインを採用。その形状からピラミッドと名付けられ、ブランド名にもなる時計師ジョン・アーノルドと息子ロジャーが200年以上前に作ったレギュレーターと、英国の古いスケルトンクロックに着想を得たものだ。左右にはふたつのパワーリザーブインジケーターを備え、それぞれの香箱の動力の減衰をリレー式に表示する。わずか4.4mmの薄さに伝統と独創性が存分に注がれたタイムピース。
 
※本文中における素材の略称は以下のとおり。
SS=ステンレススチール、K18=18金
柴田 充、髙村将司、中村英俊、戸叶庸之=文


SHARE

次の記事を読み込んでいます。