連載「極上の豆を求めるコーヒーハンターの仕事」Vol.3
コーヒーは大人の飲み物だ。深い土色の液体には、芳醇な香りとコク、味わいの要素が複雑に絡み合って備わり、相応の理解力を求められるからだ。その奥深い世界にとりつかれた“コーヒーハンター”の仕事とは? 情熱が生み出す、極上のコーヒーとは!? 深すぎる思いと、美味しすぎる一杯との出会いを、しばしご堪能あれ。
そのコーヒーは、我々のよく知るコーヒーではない。ワインにも近いような果実味と、いつまでも余韻を残すアフターテイスト。いつものコーヒーであれば、表面の色は黒くて苦みがあるはずだが、透き通っていて甘みが引き立つ。そこにあるのは、従来のコーヒー像を覆す一杯だ。
「私たちのコーヒーは、一般的なコーヒーのイメージにあるような渋みや苦みはありません。コーヒーは本来フルーツであり、甘くてクリアな味わいがします。糖度の高い完熟豆だけを使用し、甘みとフレーバーを存分に引き出しています」。
そう語るのは、コーヒーベルトをまたがって世界50カ国、2500を超える農園を知るコーヒーのプロ集団・Mi Cafeto(ミカフェート)の中條真登さん。ミカフェートはコーヒーハンターの異名を持つJosé. 川島良彰さんによって立ち上げられた、世界最高品質のコーヒーを追い求める会社だ。今回は、農園の開発から栽培技術指導に携わり、「すべてのコーヒーをおいしくする」ことを掲げている彼らに、おすすめの銘柄を教えてもらった。
「Premier Cru Café サン セバスティアン農園 ビジャロボス」
最初に淹れてくれたのは、グアテマラ生まれの「Premier Cru Café サン セバスティアン農園 ビジャロボス」。いただいた1杯の表面の色は紅茶のように薄く透き通っていて、一般的なコーヒーを基準にすると、シャバシャバの水っぽい状態に見える。しかし、それは大いなる誤解だと、一口で気づいた。
苦みも渋みも一切ない。良質なワインのように芳醇で甘いのだ。
「この甘さこそ、コーヒー本来の味わいです。ビジャロボスは、コスタリカで発見されたアラビカ種ブルボンからの突然変異種で、実の凝縮した味わいが特徴です。当社独自の品質基準の中で最上級のコーヒーを栽培する名園、サン セバスティアン農園で収穫されています。果実の味わいとローストアーモンドの風味、キャラメルのような甘みと香ばしさ、アフターテイストの長さが際立ちます」。
衝撃的なのは一口目だけではない。時間を置いても真価を発揮する。
「一気にお召し上がりにならず、じっくりと冷ましてみてください。コーヒーは冷めると酸化して味を落とす、なんてイメージを持っている方も多いと思いますが、良質なコーヒーはワインのように開くもので、淹れたてとは別の表情を楽しめますよ」。
冷ましてみると、甘みとフレーバーがより引き立ち、口当たりもとろりとしてきた。いわゆる酸っぱいコーヒーになる気配はなく、口に含むごとに舌で転がしたくなる。仕事のお供にグイグイと飲んでいたコーヒーだが、認識を改めないといけないようだ。
「Premier Cru Café サン セバスティアン農園 ブルボン ナチュラル」
収穫したコーヒーチェリーから生豆を取り出す工程である精選には代表的なもので、果皮・果肉やミューシレージ(豆に付着した粘質)を取り除き水洗いしてから乾燥させる「ウォッシュト(水洗式)」、そして、果皮をつけたまま乾燥させる「ナチュラル(非水洗式)」があるそう。
「Premier Cru Café サン セバスティアン農園 ブルボン ナチュラル」は、最高級のブルボンコーヒーをナチュラルで仕上げている。ただし、もちろんそこはミカフェート、ただのナチュラルではない。
「一般的なナチュラルの場合、天日干しする期間は8日〜10日くらい。ミカフェートの場合、ナチュラルの乾燥に20日以上をかけて100%天日の下で仕上げます。時間を掛けて乾燥させることで果肉の甘みがじっくりと豆に移り、深いコクのある上質なコーヒーが完成するのです。天日乾燥は1日に何度も手作業で豆を返さなければならず、大変な手間と時間を要すため、生産者のコーヒー作りへの愛情無くしては完成しません」。
コーヒー生産者との絶対的な信頼関係がなければできない芸当なのだ。さて、気になるお味のほどは……。
真っ先に感じたのは強烈なフレーバー。マスカットやブラックベリーを思わせる豊かな果実味だ。どことなくカカオの味わいもありながら、飲み心地はフルボディのワインにも似てどっしりとしている。そして、甘い。コーヒーは果実だと訴えかけてくる一杯だった。
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