時間を読むのではなく、ついつい時計が見たくなる。腕元にそんな一本があれば、たとえ慌ただしい日常でも時はもっと自分らしく、自由になるに違いない。
縛られない男の、まさに名刺代わりになる時計だ。
FRANCK MULLER
フランク ミュラー/トノウ カーベックス クレイジー アワーズ
既成概念を覆す機構は時の哲学者に相応しい
文字盤の数字インデックスをランダムに配列し、1時間ごとに時針がジャンプして現在時刻を表示する。針の指す位置と時刻における先入観を見事に打ち崩し、新たな時の概念をもたす。“時の哲学者”であるフランク・ミュラーならではの発想とともに、斬新かつ精緻なジャンピングアワーの技術に裏付けられ、それもまた天才時計師らしい。
MAURICE LACROIX
モーリス・ラクロア/マスターピース ミステリアス セコンド
アイロニーすら感じさせるミステリアスな針の動き
スケルトン文字盤の右上に5-9時が欠けた時分用のインダイヤルを配し、下方にはユニークな秒表示を備える。これは水平と垂直に記された秒の目盛りを、両端を青と白に色分けた針が回転しながら指す。「時間は円で表現しなければならないのか?」という疑問から開発された、線で時間を表示する斬新な機構。まるで普遍的な時の流れを嘲笑うかのようだ。
HAUTLENCE
オートランス/ヴォルテックス
独創の機構を詰め込んだ時の宝石箱時計の常識から外れた、自由なクリエイションを得意とするオートランス。本作はスケルトン仕様の角形ケースに、12リンクのチェーン構造によるジャンピングアワー表示(8-9時位置)と、中央のレトログラード式分針、赤いパワーリザーブインジケーターを備える。ケース下方にある調速機は、60分ごとに60度回転することで、重力の影響を補正し、高い精度を維持する役割を持つ。
CALVIN KLEIN WATCHES
カルバン・クライン ウォッチ/カルバン・クライン スウィング
見えそうで見えないミニマルデザインに目を奪われる
カルバン・クラインのチーフクリエイティブオフィサー就任以来、その動向に注目が集まるラフ・シモンズ。この1本は彼が監修した最新ウォッチだ。ハーフスケルトンダイヤルでムーブメントを見せつつ、スモークグレーのサファイアガラス風防を採用することで、時刻をあえて読みにくくしていることが特徴だ。見えづらいからこそ見たくなる。不思議な魅力を放つ、ラフ・シモンズの高尚な遊び心を楽しみたい。
ANDERSEN+CHAYKIN
アンデルセン+チャイキン/オートマタ ジョーカー
この時計を見れば誰もが微笑みたくなる
名門ブランドの複雑機構部門で経験を積んだデンマーク生まれの時計師スヴェン・アンデルセンと、ロシアの独立時計師コンスタンチン・チャイキンとのコラボウォッチ。目を表す左右のインダイヤルで時分を示し、口の中の舌の位置で月齢を表示する。時計を覗くたびに表情が変化するため、思わず脱力してしまうことだろう。
またケースバックには手彫りとハンドペインティングによるオートマタを搭載し、2分間にわたって、ポーカーに興じる男女3人と犬の動きが楽しめる。
FORTIS
フォルティス/ブラックアウト 2
日本だけで展開される漆黒のパイロットウォッチ宇宙から帰還する宇宙船が大気圏突入時に、一時的に地上との交信が途絶えることを意味する“ブラックアウト”から名付けられた。通常、文字盤とインデックスは視認性を高めるためにコントラストを強めることが定石。しかし本作はあえて黒でまとめた。一見時刻が読みづらそうだが、文字盤から隆起したかのようなアップライトインデックスや黒の質感を使い分けることによって、視認性を確保している点が面白い。
※本文中における素材の略称:K18=18金、PG=ピンクゴールド、SS=ステンレススチール
星 武志(エストレジャス)=写真 石川英治(Table Rock. Studio)=スタイリング 柴田 充=文