会社員時代につくった、利益を産まない「会社」
広告代理店の制作会社で部長を務めていた当時、かきぬまさんは会議中どうしても納得いかないことがあった。
「僕の経験上、会議のなかで本気で腹抱えて笑った企画って実行されないんですよ。どれだけ社内で盛り上がっても、クライアントや企業としての立場を汲んで創り上げるから、結局できあがるとすごく味気ないものになって世の中に出ていく……それって面白くないじゃないですか」。
実際に会議で盛り上がった企画を、そのまま実行してみたかった。そこで、利益云々ではなく、面白いと思ったアイディアをどんどん実行するクリエイティブなチームを自ら社内で作ることにする。
「付けた名前がTOP BANANA。バーレスク発祥のスラングで、大トリのコメディアンが、バナナを持って舞台に立っていたことから生まれた言葉なんですけど、スポットライトを浴びるとか、主役って意味があるので、これだなって思ってつけました。企画って意見するだけじゃなくて、制作する人の意見を組み入れてこそ。みんなが楽しみながら、本気で意見を共有できる場をつくりたかったんです」。
トイレが長すぎるという話から、快適に長居するためにトイレの便座を高級な皮でつくる「OBENZA」企画など、企業相手では実現不可能なユニークなプロダクトを進めた。当然、利益に関しては度外視だ。
「会社役員には、TOP BANANAのクリエイトは利益を生まない会社であることを説明し自分で出資しました。会社のなかに小さな自分の会社を持つようなイメージでしょうか」。
こうして2014年に始まったTOP BANANA。クライアント相手だったら絶対にできない企画を、そのまま実現するのは刺激的で純粋に面白かった。
「昔から、レールを敷かれたところに沿って仕事をするのが苦手。今まで会社が取り組んでいなかったことに、手をだしたくなるタイプなんですよ」。
飄々とした佇まいでテンポよく言葉を紡ぐかきぬまさんだが、そこには常に目標値を高く持つ、生真面目さが垣間見える。
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