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第3章
本当の危機が生んだ新たな「プレミアムデニム」の価値とは

2018年、前述したデニム不況から大きく揺り戻しがきている現在地。それは、かなりポジティブなものだ。特に村上さんが注目するのが「サスティナビリティ」の概念。
デニムというプロダクトが事実、環境に負荷をかけているという問題。これを解決するという手段こそが、デニムに新しい付加価値=プレミアム性をつけるものと見ているという。
「デニムと言えば、サスティナビリティから最も遠いプロダクトでしたよね。第一に、大量に農薬を使用するコットン。そして、染色においても大量の水を消費するし、ブリーチや加工には排水問題がつきまといます。こうした問題を新しい技術で解決するのが、今の潮流です」。
「誰しもがなんとなく、“今のままじゃ地球はヤバいぞ”と思いながら、幸せに暮らしながらできることに取り組みたいと思っている。デニムははきたいが、環境に負荷はかけたくない。そんな欲望を満たすのが、サスティナビリティを持つデニム。エコマインドやシェアマインドの芽生えが顕著な今の流れとも合致しています」。
かつての「プレミアムデニム」がラグジュアリー化して当時のファッションとリンクしたのと同じように、現在のデニムが、ファッションの本流が注目する「サスティナビリティ」とリンクしているという。では、実際にどのようなものが増加しているのだろうか。
今年8月の「WWDジャパン」で組まれたデニム特集。
「WWDジャパンでも特集したのですが、やはりひとつは使用するコットンの改善。そして、使用する水量削減や排水の水質改善。そして、古着などの再利用などが挙げられます。例えば、紡績時に発生する“落ち綿”を使用したデニム。あるいは、再利用可能な氷を砂や石の代わりに使った加工。持続可能なコットンの普及を目指すNGOであるBCI(Better Cotton Intiative)に加盟するブランドも増えています。今やデニム業界がサスティナビリティの旗振り役としてアパレル業界全体を牽引しているといってもいいほど、デニム業界はエココンシャスです」。
デニムのダメージ加工に多く用いられてきた「サンドブラスト」。高圧で細かい砂を吹き付ける方法は工場の労働環境悪化につながる。砂の代わりに氷の粒を使って自然な色落ちを再現する写真の「ECO-ICE」技術はデンハムで採用されており、環境改善に貢献している。(画像提供:デンハム)
そして、今後のデニムに付与されるべき「プレミアム」な価値は、サスティナビリティだけにとどまらず「多様」であるべきだと村上さんはいう。
「市場を広げていくためには、若い世代が共感できる価値が不可欠。ウンチクや歴史的価値は、僕ら世代には響くかもしれませんが、若い世代には一方的な押し付けになる可能性がある。そこで大事なのは“ウンチクを、あなたはどう解釈しますか”という問いかけ。今はコンテンツ(中身、意味)よりコンテクスト(文脈)が重視な時代。受け手がどのような文脈で、送り手がプロダクトに込めた思いを理解するか。ここに思いを馳せ、共感を得るような編集力が、デニムにも問われていくのかなと思います」。
ミシンと洗い場のついた工房を店内に持ち、購入者の相談を受け付けるデンハム。「デニムを買う」ことに、長いデニムライフをともにする店とのパートナー関係の始まりという付加価値を加え、多くのリピーターを生んでいる。
我々の愛するデニムの普遍的な価値は、置き去りになってしまう? そんな不安も頭をよぎる……。
「それこそブランドの発信次第。普遍的な価値というコンテンツを、どのようなコンテクストで共感してもらうか、ということ。今むしろ、“愛”や“家族”などの普遍的な価値は 、誰もが、どんな文脈でも価値を置くコンテンツとして若い世代に支持されています。ハイブランドは、 安直とも思えるほど直接的に“LOVE” やハートのモチーフを洋服にのせています。普遍的なものは、 いつの時代も共感できるんです。 だから打ち出し方さえ間違えなければ、デニムは絶対に廃れない」 。
「今はメジャーとマイナーの境界線がなくなり、フラットに情報や商品が消費される世の中。何が、いつ、どう跳ねるかは、もう誰にもわからない。だからこそ、100年以上愛されるほどの普遍的な価値を持ちつつ、サスティナブルなど既存の価値観には存在しなかった“何か”も満たしてくれそうなデニムには、みんな期待しているんじゃないでしょうか」。
さまざまな手法で新たな「プレミアム」が付与されるであろう今後のデニム。数十年の付き合いの相棒の新たな姿や価値に期待が高まるばかりと、高揚するオーシャンズであった。

髙村将司=文


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