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2018.11.03

ファッション

数々の名コラボを支えるナイキの番人フレイザー・クックとは何者か

高橋盾、川久保玲、クレイグ・グリーン、ヴァージル・アブロー、そしてキム・ジョーンズまで、これらの世界的なデザイナーたちには共通する“スニーカー人脈”がある。それがフレイザー・クックという男である。
ナイキのコラボスニーカーの陰の立役者、フレイザー・クック。
ナイキの「グローバル インフルエンサー マーケティング スペシャル プロジェクト シニア ディレクター」を務めるクックは、ナイキの全コラボスニーカーの陰の立役者。アンダーカバーのリアクト エレメントからコム デ ギャルソン・オム プリュスのエアマックス180まで、ファッションブランドとのコラボレーションにおいて、彼こそがナイキの真のゲートキーパーなのだ。

51歳のクックは、複業をこなす仕事人の元祖であり、その履歴書は、まるでスニーカーとサブカルチャーの入門書のようだ。
クックはロンドンでヘアスタイリスト、レコードレーベルのA&R、DJ、ファッションバイヤー、雑誌のライターなどとして幅広く活躍。やがて友人たちと一緒に自身のブランド「フットパトロール」を立ち上げ、その代表として2003年にナイキのチームにロンドン市内を案内。その後、ナイキに雇われた。
ナイキでの彼の長い肩書きは、彼の仕事を要約して説明するのは不可能だということをよく表している。筆者は今回、貴重な長編インタビューの機会を得て、クックの本拠地でもある日本で、このコラボレーションの達人の仕事の流儀についてじっくりと話を聞いた。

――あなたの仕事の中心は、クリエイティブなパートナーシップを築き、育てることにあると思うのですが、あなたのコラボレーション術について話してもらえますか?
クック まず第一に、コラボレーションじゃなきゃ実現できない何かがなければ、誰かとコラボレーションする意味はないんだ。時間をかけるだけの価値がなければならない。かっこいいのは誰かとか、人が面白いと考えるのは誰かということだけで進めるのは、絶対にまずい。
ふたつの存在が一緒に何かを作るには、具体的で、れっきとした理由を見つける必要がある。それが出発点。ナイキの観点から言えば、うまくいくやり方は、ほかの誰かと一緒に作ることで埋める必要のある「欠けた隙間」はどこにあるのか、何が自分たちにはできないかを考えるということだ。
――その隙間を埋めたデザイナーを具体的に挙げると?
クック サカイの千登勢の場合、ある種の美的なディテールのデザインや、アイデア、色、レイヤーの重ね方、シルエットなど、彼女が本当に得意なものを加えてくれた。アイコニックな商品を取り上げて、それとマッシュアップする。ひとたび人と一緒に作業を始めると、時間が経つにつれ、どんどん良くなっていくから面白い。
でも、最初から完璧なものが見つかることはまずないね。一緒に作業するということを学ばなくてはいけないから。サカイのケースで言えば、彼女たちには明白なアイデアがあって、シューズ同士を衝突させたいと考えていた。それに対して、うちのデザインチームが「つまりこういう感じ?」と応え、そこから進んでいったんだ。

――ナイキに在職中、あなたの肩書きは数回変わっていますよね。そして新しい肩書きが、「グローバル インフルエンサー マーケティング スペシャル プロジェクト シニア ディレクター」ということですが。
クック 本当に長いよね。まったく長すぎる。まだ今は、名刺ももらってないけど。
――日々の業務はどういうものですか?
クック 私はデザイナーじゃないから、デザインに関しては何もしない。私の仕事は、もっと調達段階の管理や対処が多い。目を光らせ、聞き耳を立てている感じだね。そばにいるのも仕事だ。大抵、何かに取り掛かるより前に、ある程度の人との繋がりや関係はできている。すべてのケースではないにしろ、かなり多くのケースではそうだ。
それから、ナイキの展望がどういうものかきちんと理解すること。年月をかけて、コラボレーションするのにかなり慣れてきたおかげで、落とし穴や限界や、制限や可能性などがどういうものかよくわかるようになった。問題になりそうな話は、ごく早い段階で前もってしておくことで、プロジェクトの途中で不測の事態が起きないようにするんだ。それから、本当に退屈だけど、流通に関することもやる。双方に対して人々が持っている期待の調整もやる。
――何か、コラボレーションしたくないと思わせる条件というのは、ありますか?
クック インスタグラムでたくさんのフォロワーがいる人とは、商品に関するコラボレーションはやらないようにしている。私には、この測定法が本当に意味のあるものなのか、確信が持てないしね。影響力を買う人はたくさんいるけれど、買ったところで必ずしも変化が起こるわけではないことを示すデータも多いから。
――だからブランドは「マイクロ インフルエンサー」を重用するんですね。
クック 「フォロワーは」少なくても、影響力はもっと強いからね。

「新しい」というのは、実際のデザインに対抗する精神でありうる

――ストリートウェア産業の萌芽から、それが完全な飽和状態になるまで、ずっと見てこられたわけですが、こうした視点を持てるというのはすごいことですね。これまで、ストリートウェアがこんな風に盛り上がると考えたことは?
クック いや、思ってもみなかった。私はヒップホップのごく初期の未発達の段階から今に至るまで、ずっと見てきたし、スケートボード文化も見てきた。かなり多くのものがゼロから成長するのを見てきたんだ。とはいえ大抵は、初期段階でなんらかの価値や真実味があれば、特別なものへと成長するね。
――どのようにして新奇さを求める消費者の貪欲なニーズを掴んでいるのですか。
クック 「新しい」というのは、実際のデザインに対抗する精神でありうる。シュプリームは、文化の文脈でモノの位置付けをするといいう点では、本当に良い仕事をしている。彼らは、社会や文化に内在する価値がどんなものか、本当によくわかっている。
シュプリームは今のカルチャーにおいてとても影響力が大きいから例に挙げるけど、彼らは、ある種のサブカルチャーのレベルで歴史的に価値があるものの「いいとこ取り」がすごくうまいんだよ。ほかにも、マシュー・ウィリアムズみたいに、テクノロジーやサステナビリティに関心を持っている人も中にはいる。彼と一緒に仕事をするのはすばらしかった。イノベーションとテクノロジーに関わることだったからね。
――あなたの職業の変遷を見ると、とても自然に現在に至ったように思えますが、何かキャリアプランがあったのでしょうか。
クック プランはないよ。まったくなかった。今ではそういうのは普通じゃないだろうけどね。最近の若い人たちは、自分が何をしたいのか、本当によくわかっている。当時の私には、皆目、見当がつかなかった。

――高校時代はいかがでしたか?
クック 16歳で卒業して、その後は何も勉強しなかった。何もね。両親は離婚していて、母がひとりで育ててくれていた。だから家を出る必要があったし、お金も必要だったんだ。学校の成績はいつもかなり良かったけど、すごく怠け者だった。難しすぎると思ったものは、何であれ、一切手をつけなかった。自分が自然と簡単にできることばかりやる傾向は、今もそうだ。情熱と興味にしっくりとハマるものをやる。本当にそれだけだよ。
――思い通りのキャリアを見つけるという点に関して、努力や運、情熱と興味の関係について、聞かせてもらえますか? 複雑な二項対立ですが。
クック 努力はその一部ではあると思うけど、私の周りには、(従来の意味で言えば)私よりもっと努力している人がいるからね。でも多分、私がやっているのは自分の好きなことだから、あまり仕事という感じがしないのかもしれないな。
私の場合の「普通」はそれほど普通じゃないと指摘されるけど、私にはそれがよくわからない。例えば、常にあちこちを飛び回っているのだって特権だよね。私はとても恵まれている。学校にいた頃のことを考えれば、今の自分の状況は、当時の期待をはるかに超えている。本当の本当に、私は運がいいんだ。
――スニーカーの売り上げは、近々ハンドバッグの売り上げを超えると予測されていて、どのデザイナーも、イット バッグだけでなくイット スニーカーも作る必要がでてきました。新しいコラボレーションを考えるとき、この点はどれほど影響してきているんでしょうか。イット スニーカーを追求する必要を感じますか?
クック ナイキのポイントは、私たちにはほかのブランドには作れないものが作れる点にあると思ってる。だから、私たちは常にフットウェアにおけるイノベーションに向けて努力していて、そこに真の物語を作り出そうとしているんだ。そこで重要なのは、ちょうどよいタイミングの、ちょうどよい文脈において、ふさわしい人を集め、ふさわしい商品を作ることだと思っている。
 
元記事はssense.comより。


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