移住してから「オンオフの切替」がうまくなった
移住して改めて感じる辻堂の魅力について、佐伯さんは「オンオフの切り替えができる場所」だと話す。
「都内に住んでいたときは、休日も仕事のことしか考えていませんでした。僕、気持ちの切り替え方がヘタで、夜中も仕事のことが頭にあって眠れない日もあった。辻堂に来てからは、そうやってモヤモヤと過ごす夜がなくなったんです」。
確かに、辻堂海浜公園に立ち並ぶヤシの木を眺めていると、ちょっとしたバケーションに来たような開放感がある。溢れる緑の鮮やかさと、ほのかに漂う海の匂い。都心に近いオアシスは、案外こんなところにあったのかもしれない。海の近くに住んだことで、日々の生活への意識も変わったようだ。
「これまで仕事だけに重きを置いていましたが、こっちに来てからは、徐々に生活にシフトしていった。もちろん今でもデザインの仕事は大好きですが、それと同じくらいライフスタイルを重視するようになりました」。
東京にいたころは、休日は家から出たくなかった。それが休息の形だったのだ。でも今は、ちょっと歩いてみよう、海を見にいこう……と外に出たくなるという。そしてそんな過ごし方をしているうちに、ごく自然と、辻堂での顔見知りが増えていった。
東京に10年以上住んでいても感じられなかった繋がりを、ここ辻堂では感じることができる。辻堂で育んだ絆は、たった3年の間に深い結びつきとなっていた。
「ここで知り合った人の行動力や価値観が、仕事にもいい影響を与えてくれる。行動したり挑戦したりするには、やはり体力も必要だし、バイタリティのあるうちに移住できてよかったなと思います。もっと早くこっちに来ても良かったなというくらい。辻堂にはずっと住んでいきたいですね」。
仕事と生活がうまく混ざりあった先にある街、辻堂。東京でバリバリ働いているからといって、必ずしも東京に住まなければいけないわけではない。
そのことに気づいた佐伯さんは、海の見えるこの街で、新たなスタートを切った。額に汗を滲ませながらブッシュクラフトに夢中になる、その笑顔は生き生きとしていた。
藤野ゆり(清談社)=取材・文