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主観的な「プレミアム」
太田 石井さんと一緒にレオンを作っている頃に感じていたのは、読者が皆すごく素直だということ。提案したことに対して、何でも抵抗なく取り入れてくれていました。
榊原 ピュアなんだね。
石井 上の世代の人たちは、ストレートにこれがプレミアムですと言われると素直に読んでくれていたけれど、今の時代はこれがプレミアムですよという言葉をすぐには信じない。現代的なプレミアムにはもっと自主性や主観が大切になるんだと思います。

現代のプレミアムは、それぞれが特別な感情や時間をもたらしてくれるモノやコト
̶ 太田 祐二(OCEANS 編集長)

榊原 機能とか実用性はもうほとんどどれも変わらなくなってきている。そうすると自分にとって主観的にプレミアムであるか、特別な質を持っているかが、何かを買う時に大事になってくるんじゃないですかね。
太田 プレミアムって日本語にすると正確にはどういう意味ですか? 上質?
榊原 極上? 高品質?
太田 日本語でなんと言うのかはっきりしないくらい、世の中はプレミアムを一般的な言葉として使ってるわけですよね。つまり感覚的に理解しているだけ。プレミアムなことっていろんな言葉に置き換えられるんじゃないかと思う。さっき言った特別感も満足感もプレミアムなことと言えるかもしれません。
太田 祐二 Yuji Ota(OCEANS 編集長) 1972年生まれ。早稲田大学卒業。ブリヂストン入社後、出版業へ転職。2001年『LEON』創刊時の初期メンバーとして参画。2006年2月『OCEANS』創刊に携わり、 2008年2月より同誌編集長に就任。
榊原 プレミアムを漠然とした意味で共有していても、価格的に高いものというよりもエモーショナルなもの、感情に訴えかけるものという感じはしない?
石井 特に今の時代は、ということじゃないですか? 僕らの世代だと、プレミアムと言われた時、プレミアやレアのように物質的な希少性を意味する言葉として捉える部分がありましたけど、今の時代ではたしかに感情的な結びつきが入っているかもしれません。
榊原 例えば金塊がプレミアムな感じはしない(笑)。
石井 そうですね。でも、その金塊でできた自分がいいと思えるものだったら、プレミアムになりますよね。そこには感情や思いが入っている感じがします。
太田 現代のプレミアムは、それぞれが特別な感情や時間をもたらしてくれるモノやコトってことですよね。
石井 答えを出さずに委ねる新しさもありますね(笑)。そう考えるとプレミアムと自由は近しい考え方ですね。
 
自由はいつ、どう使うべきか
榊原 僕はサーフィンをするので、自由な時間があると海に行くんですが、楽しいし心は解放されているかもしれないけど自由だと感じているのかな?
石井 夢中になっているときって自由とは感じないですよね。自分だと、例えば、週末に入っていた仕事の予定がずれたり早まったりしてたまたまポンと時間が空いて、お、ゴルフに行ける! と思った瞬間はすごい自由を感じますね(笑)。ふと目の前に現れた時のほうが、自由が見えてきます。
太田 出張の最終日、ホテルを午前中にチェックアウトして、帰りの便が夜遅い時間だった時のぽっかり空いた時間はむちゃくちゃ自由を感じますね。おもしろそうなことをすぐ調べて、美術館に行く時もあれば、電車に乗ってとんぼ返りするだけの移動で満足することもある。でも、その自由って何をやっていいんだろうって、ちょっとそわそわもする。
石井 じゃあ、その自由をどう使うかというと、僕はやっぱり誰かとなんですよね。使うと言うとアウトプット感がありますけど、例えばゴルフという経験を通したインプットなんです。それによってリラックスできたり、失敗してひどいスコアだったから今度時間を作って練習を頑張ろうと考えるようなことも、自由を使っているんだけど、何かを得ているという感じがあります。
太田 自由ってたいがい羨ましがられるものですけど、それっていつも自由を満足いくほど持てていないことの証拠ですよね。でも、一方で自由を謳歌しすぎると呆れられもするんですよ。
石井 そう考えると、本当は自由って制限がある中で見つけたり、獲得したりするものなんでしょうね。更に言うと自由は取っておいたり、貯蓄したりできない。
太田 自由はその時にしか使えないものだね。
榊原 自由があったら即使え。
石井 標語みたい(笑)。
太田 さっき話した出張で空いた時間を使うのはまさにそう。美術館もそこでしか見られない、行ったことのない場所に行ってみるのも、その時そこでしか見られないものを見るという自由。

自分にとって主観的にプレミアムであるか、特別な質を持っているかが、何かを買う時に大事になってくる
̶ 榊原 達弥(Safari 編集長)

榊原 石井さんが言ったように予測できないぽっかり空く時間はうれしいじゃないですか。僕もその自由で、何かインプットすることをしたい。家で1、2時間空いた時、不意に昔聴いていたレコードを引っ張り出してみたり、ギターの練習をしたりということをよくやるんです。何かの役に立つわけじゃないけれど、自分的にはインプットになっているんですよね。
石井 僕は、普段なかなか映画に行けないから、急に3時間空いたらぱっと観に行くとかはしてます。
太田 自由になると豊かにはなりますよね。普段できないことを積極的にしようとする。
榊原 それもプレミアムなのかもよ。
榊原 達弥 Tatsuya Sakakibara(Safari 編集長)※さかき原のさかきは「木」辺に「神」 1963年生まれ。青山学院大学英米文学科卒業。日之出出版に入社。『FINEBOYS』編集長、『Fine』編集長などを経て、2004年9月から『Safari』編集長に就任。
これからの自由の使い方
石井 榊原さんが何の役に立つかわからないと言いましたけど、レオンは自己満足を肯定するんですね。そして、それと同じくらい他の人からこう見られたいと考えて振る舞うことをモチベーションアップとして考えていて、自己満足とそれがいいと評価されるという関係で他人と共感し合えたら、今までにない新しい価値になっていくんじゃないかなって。
榊原 今までだと自己中心的、自己満足だった自由を、それで終わらせずに他者からの評価や繋がりにまでしていくってことだよね。震災以降、ボランティアをする人も増えていますよね。これって自分さえよければいいっていうのとは真逆で、ある意味、自分で自分の心にプレミアムな価値を生み出している。誰かのためだし、自己満足もある。
太田 社会的なことと折り合いをつけた自分だけの喜びを見つけること。押し付けず、これが俺の喜びだと言えるものを見つけることが、これからのプレミアムであり、有意義な自由の使い方なんでしょうね。

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