自分を信じて行動。その結果、前職でのスキルが生きている。
アパレルから飲食業界への転職。全く違う業種への挑戦だが、前職があったからこそ、今があるという。
「まったく違う分野の挑戦だったので、当時は周りからもどうなのって目で見られていたし、僕自身もそう感じている部分もありました。でも今は、盛りつけの色彩やケータリングの際のテーブルコーディネイトに、前職が活きているなと感じることも多いですね」。
バイヤー時代は服だけではなくインテリアや雑貨を扱うこともあり、その知識、センスの磨き方は前職で培われたもの。アンティークや花にも造詣が深い上諸さんによる、華やかで洗練されたコーディネイトの評判は上々だ。
「一見まったく関係のないことに思えても、結局ムダにはならなかった。ただ目の前のことを信じてやってきただけですけど、人生にムダなことってないなと思います。誰かに言われたからとかじゃなく、自分で決めることが大事だと思う。あとは、その選択を信じて迷わず行動するだけですね」。
食に関することは、ずっと続けていきたいという上諸さん。お店が軌道に乗った今、今後の展開も考えているのだろうか。
「普及活動っていうと大げさですけど、もっと食の喜びを発信していきたいですね。ただお腹をいっぱいにする、ではなくて、食べ物を貪欲に選択することの楽しさを伝えたい。食材の生産者の育て方だったり想いだったりを聞いて食べるだけでも、全然違うんだよって」。
食を通した生活の豊かさ。それを自身のお店で発信し、広めていくことが当面の目標だという。バイヤー時代から変わらないフットワークの軽さも上諸さんの武器だ。
「今年はヴィーガンやオーガニックが流行っているポートランドに行って、勉強してくる予定です。自分で足を運んで、現地のカルチャーを吸収したいですね」。
自分の信じたものを伝えるために、今日も上諸さんはキッチンに立つ。その横には、昨年結婚したばかりという奥様も一緒だ。
「僕の仕事をずっと応援してくれていて、今はナチュラルフード研究家として、毎日一緒にキッチンに立ってくれています」。
お店のホームページに掲載されている写真をみて、奥様かわいいですね、と言うと、「僕もそう思います(笑)」と一言。夫婦二人三脚で道を切り開いて行く、「愛菜食堂」という店名には、そんな意味も含んでいるのかもしれない。
藤野ゆり=取材・文