30代半ばまでは、古着バイヤーとして海外を飛び回る日々
上諸さんの前職は、「食」とまったく関わりのないアパレル業界だ。
「ハワイに語学留学に行ったときに古着の魅力にとりつかれ、日本に戻ってからは古着の卸売会社に就職しました」。
24歳で飛び込んだ洋服の世界。古着バイヤーとして、日本と海外を行き来する日々を過ごした。
「買い付けでよく訪れたのはロス。西海岸のテイストが好きなんです。当時は海外に行っても忙しくて、食のことなんてまったく気にしていなかったですね。美味しいものっていうよりお腹を満たせればいいやって感じで、ジャンクフードが大好きでした(笑)」。
もともと食に全く興味がなかったという上諸さん。料理経験もほとんどなく、「食べる専門だった」と笑う。
食への意識が劇的に変化したのは、7年前の3.11東日本大震災がきっかけだ。食の安全性に注目が集まり、さまざまな情報が錯綜。上諸さんの気持ちにも揺らぎを生んだ。
「自分なりに何かできないかなと考えているときに、たどりついたのが“食”でした。食事で自分を守る。それで独学で、食事の勉強を始めたんです」。
通信教育で知識をつけ、有機栽培などの自然食やヴィーガンに興味をもった。ナチュラルフードコーディネイターの資格をとったのもこの頃だ。
「僕は、一度決めたら突っ走っちゃうタイプ。今までオーガニックな食事なんて食べる機会もなかったけど、いざ口にしたら美味しさに感動して、だんだん自然食の良さを日本で発信したいと思うようになりました」。
そこで始めたのが、オーガニック弁当のデリバリーサービスだ。シェアキッチンを借り、ネットで注文を受けるようにした。イベント出店なども積極的にこなし、顔を売った。もちろん当時は、アパレルの仕事と並行してのスタート。うまくいく保証はなかったが、自分たちが出すものには自信があった。そこに迷いはなかったという。
「最初の頃は、月に1回、注文があるかないか。凹んだときもあります。でも何度も試作して勉強も重ねていたので、いけるっていう自信はありましたね。うちのお弁当は本当に素材の良さが自慢。僕は、それを活かした味付けをしているだけです」。
追い風になったのは昨今の健康食ブームだ。徐々に注文は増えていき、デリをスタートさせて1年ほどで自信を確信に変えた上諸さんは、バイヤーを辞めた。そして去年の6月、都内に店舗を借り、本格的に「がじゅま〜る」を始めたのだ。
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