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2018.09.08

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映画監督と奇跡の棋士。将棋を愛する2人が生み出す物語

知らなきゃ男が廃るが、知ってりゃ上がる。気にするべきは、顔のシワより脳のシワ。知的好奇心をあらゆる方向から刺激する、カルチャークロスインタビュー。

豊田利晃「奨励会を退会した人間は、だいたい将棋を憎むんです」

1969年、大阪府生まれ。映画監督、脚本家。初監督作品『ポルノスター』(’98年)で日本映画監督協会新人賞を受賞する。そのほか代表監督作品には、『青い春』(2002年)、『空中庭園』(’05年)、『蘇りの血』(’09年)、『I’M FLASH!』(’12年)などがある。
将棋で食う「プロ棋士」になるには、過酷な試練が待ち受けている。まず、プロ棋士養成機関、奨励会の試験を受け入会し、26歳になるまでに四段になれないと退会。プロにはなれない。
そんな厳しい勝負の世界で、35歳でプロになるという奇跡を起こした男、瀬川晶司の自伝を映画化したのが『泣き虫しょったんの奇跡』だ。監督・脚本は、これまで闘う男たちの物語を数多く手掛けてきた鬼才、豊田利晃。実は豊田自身も奨励会出身で、9歳で入会試験をパスした神童だった。
「6歳の頃から将棋を始めて、どんどん強くなっていったんです。親がアパートを経営していたんですけど、そこにさまざまな生い立ちの人たちが住んでいて、みんなお金がなかったんですよ。だから“俺がプロ棋士になって稼いで、みんなを幸せにしてやる!”って子供っぽい夢を持ったんです。ただ現実は学校にも行かず、将棋ばかりの生活に疲れて17歳でやめました」。
そんな豊田が、瀬川の自伝に興味を持ったのも当然の成り行き。「奨励会の描写がリアルで、自分と同じ感覚を持っていることに惹かれた」と豊田は言うが、その感覚とはどういうものだったのか。
「奨励会を退会した人間は、だいたい将棋を憎みだすんです。負けた自分を認めたくなくて。でも、瀬川さんは憎しみを愛に変えることができた。それはすごいことだと思います。僕は奨励会をやめて以来、将棋を指せなかったんですが、瀬川さんの本を読んだあと、また指してみたいと初めて思いました」。
26歳までに四段になることができず奨励会を退会した瀬川は、サラリーマンとして第二の人生を送ることに。しかし、アマチュア大会で優勝した瀬川は、友達に支えられて一念発起。奨励会退会者として初のプロ編入試験を受けることを許される。6人の棋士と指して3勝すればプロになれるのだ。そして、一生の夢を賭けた大勝負が始まる。
「今回は将棋の一局みたいに人生を描きたかったんです。人生にはいろんな出会いがある。その出会いの一つひとつが駒で、それがラストに集約されていく映画にしたいと思いました。だから映画の後半は、瀬川さんを取り巻く人たちの存在感が大きくなっていくんです」
夢を一度諦めたのち、瀬川は再挑戦をし、プロ棋士になる夢をかなえた。一方の豊田は映画という新たな世界に飛び込み、監督として名声を得た。実際に対局したことはない、将棋を愛するふたりの勝負師。常にそれぞれの勝負に挑み、結果を求め続ける彼らの魂は、本作で美しく交わることになる。
『泣き虫しょったんの奇跡』
©2018「泣き虫しょったんの奇跡」製作委員会 ©瀬川晶司/講談社
監督:豊田利晃/出演:松田龍平、野田洋次郎、永山絢斗、染谷将太、妻夫木 聡、松たか子、美保 純、イッセー尾形、小林 薫、國村 隼ほか/配給:東京テアトル/9月7日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国ロードショー
http://shottan-movie.jp
小学校の頃からプロ棋士に憧れていた“しょったん”こと瀬川晶司。奨励会に入ったものの、あえなく挫折。しかし友人たちに支えられ、35歳にして2度目のプロ挑戦の機会が訪れる。瀬川を演じたのは豊田作品の常連、松田龍平。
長尾真志=写真 村尾泰郎=取材・文


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