「大人のCOMIC TRIP」を最初から読む見た目は口以上に雄弁かもしれない。靴に時計、カバン、そしてスーツ。普段何気なく身につけているものが、その人の「人となり」を如実に表すのはよくあることだ。
量産品を身につけることを否定しているわけではない。ただし、大人ならば、ここぞというときのための「戦闘服」くらいは持っておきたいもの。例えば、オーダーメイドの仕立て服。細かな採寸を繰り返し完成する世界で一着しかないそれは、着る人の魅力を最大限に引き出してくれるだろう。
『王様の仕立て屋』シリーズ(大河原遁/集英社)は、そんな服飾の世界を舞台にした作品だ。
主人公はナポリの泥棒市で仕立て屋を開く、織部 悠(おりべ・ゆう)。伝説の職人・マリオに師事した、最後の弟子だ。その性格は、まさに職人かたぎ。穏やかな物腰ながら、依頼人を試すようなことをしたり、法外な金額をふっかけたりと、気難しい一面を備えている。しかし、その腕は天下一品。たとえ採寸ができない状況であっても、寸分の狂いもないスーツを仕立ててしまうほどだ。
本作ではそんな天才的な腕前を持つ織部が、服飾を通してさまざまな問題を解決していく様子が描かれる。依頼人の悩みを見抜き、腕ひとつで鮮やかに解決へと導くその姿は、まるでかのブラック・ジャックのよう。
その際、カギとなるのは、服飾に関する奥深い知識。例えば、わずか1mmのサイズ違いがストレスとなり、着ている者をイライラさせるという事実。あるいは、ズボンの「折り目」ひとつで、スタイルが段違いに見えるということ。服好きならば、必ずや共感したり、驚いたりするポイントが盛り込まれている。一流テーラーの裏側を覗き見するような感動が得られるのも、本作ならではの魅力だろう。
なお、本シリーズは2003年からスタートし、今年で15周年を迎える人気作。『王様の仕立て屋~下町テーラー~』とタイトルを新たにし、第4シーズンの連載を8月からスタートさせたばかりだ。しかも、その舞台となるのは日本。今度は日本人を相手に、織部がどのような活躍を見せるのかが楽しめるだろう。そして、本作を読んだ後には、きっと自分だけの一着が欲しくなるに違いない。
五十嵐 大=文
1983年生まれの編集者・ライター。エンタメ系媒体でインタビューを中心に活動。『このマンガがすごい!2018』では選者も担当。