「ロー・ハンギング・フルーツ」に頼りすぎない
若手の自己評価が高くなってしまう、よくあるもうひとつの理由は、目標設定のレベルが低すぎることです。昔と違い、今は「褒めて育てる」がベースになっています。そのために、目標設定はロー・ハンギング・フルーツ(低い位置にある果実)といって「ちょっと背伸びすればできる」レベルにすることが多い。そうなれば、当然、「ちょっと背伸びして」目標達成してしまう。そして褒めちぎられる。このこと自体はモチベーションは上がるでしょうが、自己評価の観点からはこんな手法に頼りすぎていては誤解して当然です。
むしろ、自己評価の高い人であるなら、それをうまく逆手に取って、「君ならこれぐらいできそうだと思うけれども、できるよね?」「はい、もちろんそれぐらいできると思います!」「そうか。さすが。では、これぐらいを目標に設定してみるか」と、高いレベルの目標設定をすることも重要です。そして、うまくいけば報いてあげれば良いし、そうでなければ、「残念だった」とすれば、目標に達成しなかったわけですから、ぐうの音も出ないでしょう。
能力を褒めずに、努力を褒める
最後のひとつは、褒め方です。若手が何か成果を出したときに、褒めることはもちろん良いのですが、「さすができる人は違うねえ」とか「天才!素晴らしい!」とか言っていませんでしょうか。実は、このように「能力」を褒めるのはあまり良くないようです。
ドゥエックの研究によれば、能力の高さを褒められると、その評価を下げることに恐怖を抱き、新しいチャレンジを避けて、先の「ロー・ハンギング・フルーツ」ばかりを狙いにいくようになることが知られています。能力に注目することで、成果をもたらしたのは(努力ではなく)能力というそもそも持っている(つまり固定的な)ものである、と考えるようになるということでしょうか。能力を固定的なものと考えるのであれば、少しでも低い評価をされればそれを守ろうとして無意識的に反発し、「それは相手の評価のほうがおかしいのだ」と考えてしまうかもしれません。
一方で、コントロールしやすい努力のほうを褒めることで、「自分の意思で成果はなんとでもなるし、成長するかどうかも決まる」という意識になるとのことです。低い評価を受けた際にもそれを自分の能力に起因すると考えるのではなく、「もう少し努力すれば良かった」「やればできたかもしれない」と考えることで、その評価を受け止めやすくなることでしょう。
自信を失わさないようにしてあげたい
今回は、自信過剰な若手の評価に対する不満にどう対応するかについて述べてみました。上にも述べましたが、若手の自信過剰さは特権であり、それ自体価値あるものだと思います。しかし、この「根拠のない自信」は、オッサンになると現実にまみれて、どんどん失われていってしまいますので、下手すると、無意識に自信ある若手を妬ましく思う気持ちになってしまうのではないでしょうか。その気持ちに気づかずにいると、未熟で無知な若手に、そのままの現実を見せつけてコテンパンにして潰してしまうオッサンになってしまいます。自分も昔は自信過剰な若手だったわけですから、大人である我々はもっと鷹揚に若手を受容してあげてほしいと思います。
曽和利光=文
株式会社 人材研究所(Talented People Laboratory Inc.)代表取締役社長
1995年 京都大学教育学部心理学科卒業後、株式会社リクルートに入社し人事部に配属。以後人事コンサルタント、人事部採用グループゼネラルマネジャーなどを経験。その後ライフネット生命保険株式会社、株式会社オープンハウスの人事部門責任者を経て、2011年に同社を設立。組織人事コンサルティング、採用アウトソーシング、人材紹介・ヘッドハンティング、組織開発など、採用を中核に企業全体の組織運営におけるコンサルティング業務を行っている。