たった1本のナイフから生み出されていく“道具”たち


自然を汚さず傷つけず、落ちている枝や枯れ木だけを集め、テキパキと拠点を作っていく。ただ工作を楽しんでいるような彼らだが、「乾燥している立ち木は薪になるんですよ」「虫よけ効果のあるヨモギはベッドに敷くといい」「アカツメクサって美味いんですよ、炒めても米に混ぜて炊いても絶品」と、自然の中で遊ぶための知恵を駆使している。知っているからこそ、より楽しい。ストイックな作業が続くが、常に笑顔が絶えない。

ほどなくして拠点が完成し、のんびりリラックスした時間が流れ始める。ひと息ついたところで、川口さんからブッシュクラフトの魅力について話をうかがった。

「ブッシュクラフトを始めたキッカケは、恥ずかしながら映画の『ランボー』に憧れてまして(笑)。最初はサバイバル術に特化した教室のようなところへ学びに行っていたんです。ですが、自分がそうした技術を会得して人に教える立場になったときに、もっとみんなが楽しみながら学べるようになればと思い、ブッシュクラフターとしての活動を始めました」。

ブッシュクラフトとサバイバルには共通点が多くあり、必要な要素は、シェルターと水と火と食の4要素。それぞれの道具を自然の中に持ち込むのではなく、自然の中にあるもので道具からつくり出すのが醍醐味だ。なかでも大切な存在として「火」についてこう語る。
「焚き火のないブッシュクラフトはありえない。ただ、自然のなかにあるもので火を起こすのって、意外と大変なんです。だから、時間と手間をかけてやっと点いた火を目にすると、大人でもきっと感動するはずですよ。そうして起こした焚き火で調理をしたり、暖を取ったりする時間というのは、はたから見たら何でもない風景だけど、自分にとってはとても有意義になる。まさに大人だから楽しめる、贅沢な時間にもつながると思います」。

地面に穴を堀って作った自然の焚き火台を前に、おもむろに川口さんが火を起こし始めた。そこで使うのは木の枝と、植物の蔓のみ。「シャッ、シャッ」というリズミカルな音を立てながら“弓”を動かすと、徐々にくすぶった火の匂いがし始める。

出来上がった小さな種火を、枯れ草のなかにやさしく落とす。息を吹きかけて酸素を送り徐々に火を大きくしたところで、はじめて薪に火を移すことができる。手間ひまかけて起こした火は、市販の薪と着火剤で行う焚き火とは異なり、大きなありがたみを感じさせてくれる。
3/4