世界から総勢65ブランドが出店する日本最大級の時計展「
三越ワールドウオッチフェア」。限定品、稀少モデルなどとともに奥深き時計の魅力にドップリ浸れる13日間は8月15日(水)からスタート! 今回は「時を観る」をテーマに、映画を通して「時間」という概念を再考する。
映画とクルマに精通するライター、鈴木真人氏が考える、映画における「時」の扱われ方、その中における「クルマ」の果たす重要な役割とは。
映画の中の、「時」と「クルマ」の親密な関係
映画の中の時間は、直線的に進むとは限らない。飛躍し、反転し、あるいは置き換わる。スクリーンには、現実とは異なる時間が流れている。
最初に結末となるシーンが示され、バラバラなエピソードがひとつの物語に収束していく過程を見せる映画もある。現在のストーリーに回想が挟み込まれ、同時に進行していく叙述スタイルも多い。このように、監督は映画の時間を自由に操る特権を持つ。
だから、映画はタイムスリップと相性がいい。セットを変えるだけで、主人公を別の時代に飛ばしてしまうことができる。
『ミッション:8ミニッツ』の主人公は通勤列車の中で目を覚まし、8分後に爆発事故が起きる。彼も命を落とすがすぐ同じ場面に復活し、何度も繰り返すうちに謎を解明する。
『オール・ユー・ニード・イズ・キル』では、臆病な兵士が宇宙人の侵略に立ち向かい、無数の死を重ねたあとにループから抜け出して地球を救う。原作は日本のライトノベルである。“セカイ系”と呼ばれるジャンルで、自我が無媒介に極大化して時間すらも主観に回収されてしまう。
タイムスリップもので最も有名な作品が『バック・トゥ・ザ・フューチャー』だろう。1985年から30年前に戻ってしまうという話だったが、続編では30年先に移動する。それが2015年なので、映画の中の未来は今や過去になってしまった。
大ヒットした要因のひとつは、タイムマシンとしてデロリアンが採用されたことだろう。実際には’82年に製造を終了していたクルマだが、シルバーのボディにガルウイングドアといういかにも未来的なフォルムがストーリーにマッチした。
ウディ・アレン監督の『ミッドナイト・イン・パリ』にも、素敵な自動車型タイムマシンが登場する。パリを訪れた脚本家は、仕事も恋愛も絶不調。思い悩む彼が深夜のパリを歩いていると、クラシックなクルマが現れる。’20年代のプジョー・ランドレー・タイプ184だ。
乗り込んだ彼が連れていかれたのは、そのクルマが走っていた時代のパリだった。バーでは、フィッツジェラルドがヘミングウェイと文学論を戦わせている。憧れのゴールデンエイジだ。しかし、当時の文化人たちは、理想の時代はもっと前にあったと考えている。現状に不満を持つ者にとって、良き時代というのは常に過去なのだ。
デロリアンと違い、プジョー型タイムマシンは炎のタイヤ痕を残したりはしない。音もなく街角に現れ、時の流れを鮮やかに覆す。
鈴木真人 Manato Suzuki
1960年、愛知県生まれ。女性誌編集者、自動車専門誌「NAVI」編集長を経て、現在はフリーのライターとして活躍中。映画をはじめとするカルチャーとクルマの接点を鋭く分析するコラムに定評がある。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。初めて買ったクルマは「アルファ・ロメオ1600ジュニア」。
[イベント詳細]第21回 三越ワールドウオッチフェア期間:8月15日(水)〜8月27日(月)場所:日本橋三越本店 本館7階催物会場鈴木真人=文 平沼久幸=イラスト いなもあきこ=編集