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これはひとつには熱海市行政のシティプロモーション施策が奏功したことが挙げられます。2017年に観光庁が発行した観光白書で、熱海は観光地再生の事例として取り上げられました。実際に「観光関連者の中で統一プロモーションの必要性を共有、新規顧客獲得に向けて若年層をターゲットに選定」したことも成功の要因であると書かれています。

街の衰退を目の当たりにして感じたこと

これだけ観光客が増えてきている熱海ですが、冒頭にふれたように7年前までは観光客が長らく減り続けていました。
私自身も、熱海で生まれ育つなかで1990年代の半ば頃から数年で一気に熱海のお客さんが減り、衰退していく街の姿を見てきました。当時高校生だったのですが、「どこどこの宿泊施設が潰れた」という話や「誰々さんが夜逃げした」というような話が私の耳にもよく入ってきていました。
そしてそれはその後大学生となって東京に出ていた私自身の身にも起こりました。両親が管理をしていた企業の保養所が閉鎖となったのです。
生まれ育った熱海の街で大きなホテル・旅館が次々と閉鎖していく状況を見ていて、このように思いました。
「大きなものや、よそのものに頼っている街はもろい。小さくても地域に根付いた人や事業をつくっていかないと、街は数年で一気に廃墟のようになってしまう」と。
では、熱海はなぜ衰退してしまったのでしょうか。また熱海だけでなく、なぜ日本の温泉観光地はどこも衰退してしまったのでしょうか。
その答えは、従来型の観光が行き詰まったことに理由のひとつがあると考えられます。熱海の全盛期だった1960年代半ば、宿泊客の中心は団体旅行の人々でした。首都圏の企業の慰安旅行などで、団体のお客さんがたくさん熱海にやってきていたからです。
ところが、2000年代に入った頃から、旅行に対してお客さんが求めるものが変わってきました。かつてのように、旅館やホテルにただ泊まるだけの旅行では、お客さんは満足できなくなったのです。
そのような従来型観光ではなく、旅行で何が体験できるのかが、問われる時代になったからです。


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