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2018.08.02

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欲求とは己を突き動かす動機。俳優・上川隆也が「今こそやるべき」と感じた舞台

知らなきゃ男が廃るが、知ってりゃ上がる。気にするべきは、顔のシワより脳のシワ。知的好奇心をあらゆる方向から刺激する、カルチャークロスインタビュー。

上川隆也「欲望に忠実な魔人に、欲を抱く意義を見ました」

1965年、東京都生まれ。’95年、NHKドラマ「大地の子」で主役に抜擢される。以降、数多くのテレビドラマや映画に出演。演技の幅広さには定評がある。「遺留捜査」(テレビ朝日)、「ルパン三世PART5」(日本テレビ)に出演中。
言葉で思いを100%伝えるのは不可能に近い。だからこそ、人は、なるべく自分の感情に近い言葉を探し、正確に表現しようと努めるわけだが、取材現場で対面した役者・上川隆也はそれをことさら感じさせる人物であった。
この秋に主演する舞台『魔界転生』への意気込みをたずねると、「自分で申し上げるのはおこがましいのですが、山田風太郎の原作を愛してやまない読者のひとりとして、この作品に関われることを誇りに思います」と語った。
その態度は折り目正しく、実直な人柄がありありと透けて見えるようだった。
島原の乱の首謀者である天草四郎が、江戸幕府のキリシタン弾圧により滅ぼされたのちに秘術で甦り、現世での怨念を晴らさんと幕府滅亡を謀る様を描いた伝奇小説『魔界転生』は、1981年の映画化以降、幾度となく舞台やアニメなどでリメイクされてきた。
だが上川は「今こそ、やる意義がある」と声を大にする。
「今の若い方々はクルマ離れに象徴されるように大きな買い物をなさらないと聞きます。自分が欲しているものがわからないのか、そもそも何も欲していないのかはうかがい知れませんが、いずれにせよ欲求というベクトルが今日の社会からは消えているような気がしてなりません。一方、この作品で描かれる魔人たちは己の欲望にひたすら忠実です。これは僕なりの解釈になりますが、山田風太郎という作家はそんな魔人たちの姿を通じ“欲求の偉大さ”に迫ろうとしたのではないかと思うのです」。
そこまで聞いて、ふと思い出した。上川の世代はバブルを身を以て知る世代。その当時、世の中は好景気に沸き、行く末を案じる人は少なく、消費活動に積極的だったのだ。
だが今は違う。今の若者は、上川も指摘するように消費には消極的だ。
「僕らの時代はスーパーカーがブームになり、“クルマが格好いい”という概念が人々に刷り込まれました。腕時計についてもそう、洋服についてもそう。刷り込まれたから求めたくなる。欲求が生まれるわけです」。
そして、上川は続けた。
「欲求とは“こうありたい”という希望ともいえます。己を突き動かす動機と捉えれば、それはとても素敵なこと。希望的観測でいえば、クルマには関心を持たない今の若い方々が新作『魔界転生』から“欲求=希望”というエネルギーを受け取ってくださるかもしれない。本作でそんな化学反応が起き、人生をさらに豊かに感じるようになってもらえれば、これほどの幸せはありません」。
そう言ってひときわまじめな表情をする上川に、思いを伝えたい、感動を与えたいという役者ならではの欲を見た気がした。

『魔界転生』


原作:山田風太郎/脚本:マキノノゾミ/演出:堤幸彦/出演:上川隆也、溝端淳平、高岡早紀、浅野ゆう子、松平健ほか/会場・日程:博多座10月6日(土)〜28日(日)、明治座11月3日(土・祝)〜27日(火)、梅田芸術劇場メインホール 12月9日(日)〜14日(金)

島原の乱で滅びたキリシタン一揆の首領・天草四郎が死者再生の術「魔界転生」で甦り、次々と転生する歴史上の剣豪と幕府滅亡を謀る。幕府の命を受けた柳生十兵衛と魔界衆の激突、個性的な登場人物が織りなす人間ドラマに注目したい。日本テレビ開局65年記念舞台。
長尾真志=写真 甘利美緒=取材・文 黒田匡彦=スタイリング ロスガポス フォー スタイリスト=衣装協力


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