もし、今日が人生“最後の晩餐”だとしたら、アナタは何をテーブルに運んでもらうだろうか? 最後と知らず「アレが食べられてれば……」と後悔するなんてまっぴらゴメン。食いしん坊オッサンたちよ、教えてください。「人生最後の日、どこの何が食べたいですか?」
日本を代表するDJであるFPM(ファンタスティック・プラスチック・マシーン)こと田中知之さん。この人が居なかったら日本のクラブカルチャーは10年は遅れていたのではないか、と言っても過言ではない人物だ。
そんな田中さんの「
タラレバ最後の晩餐」はなんと、うどん!
でも、ただのうどんじゃない(そりゃそうだ!)。
この一杯にありつけるのが中目黒の「藤八」。冠に“大衆割烹”と付く名店である。
空間も、貼り出されているメニューも、客も、パーフェクトと言っていいほど素晴らしい雰囲気で、まさに大衆のための割烹である。
実はこの店、中目黒界隈で飲む人にとってはよく知られた存在で、昭和52年オープンの超老舗。そんな「藤八」に、田中さんは特別な想い出を持っている。
「今から22年前に京都から上京したんですけど、最初に住んだのが中目黒の汚いマンション。で、引っ越してきたその日の夜、東京での生活に不安を抱きながらの最初の晩餐が『藤八』だったんです。そのときに食べたのが、このうどんなんです」。
ちなみに、京都出身者にとって東京でうどんを食べるのにはちょっとした勇気が必要だとか。というのも、東京のうどんはつゆが黒く濃く、さっぱり京出汁が当たり前な身からすると「どんぶりの底が見えないほど濃いつゆは恐ろしくて飲めない」という。
つまり、当時の田中さんもドキドキしながらテーブルで待っていたわけです。ところが、運ばれてきたうどんを見てビックリ。
「全然濃くなかったんです」。
そして、食べて2度目のびっくりを体験。
「味が明らかにオリジナルで完璧だったんです」。
そのメニューがこちらである。
「藤八」では、「ラストオーダーが近づくとスタッフの方が、この“うどんメニュー”を持って各席を回ってくれるんです。そうすると『そろそろ閉店か』と(笑)」。
そして、この日はいくつかあるバリエーションの中から「“最後の晩餐”なので」と「明太子うどん」(570円)を注文。そして、ほどなくしてテーブルに「明太子うどん」が運ばれてくる。
そして、いよいようどんを口にする。
まずは清んだつゆをすする田中さん。「優しい味だなぁ」と言葉がもれる。そして、麺をすする。歯ごたえ十分なもっちりとした麺が口の中を幸せにする。
ズズズッっとやったら、つゆを口に含み、を数回繰り返したら、箸で明太子をつんつん。
食べ方にルールはあるのか聞いてみると、「最初は明太子を崩さず、素うどんの味を楽しむ。そして、自然に明太子がほぐれてきたら箸でつんつんして、つゆにといていく。すると、明太子の粒が混ざってまた格別なんですよ!」と田中さん。
「このツブツブ感、ヤバくないですか?」とどんぶりを見せてくれる田中さん。そんな絶品つゆを無駄にしないため、少し飲んでは箸でクルクル混ぜ、飲んだらまたクルクル。そして、完食。
これで最後の晩餐終了。と思いきや……。
「ここは『肉じゃがコロッケ』もヤバイんですよ」と、壁のメニューを見つめる田中さん。
そして、「もう一品、いいですか……」。
これがホントに最後だと、下町のシャンパン=生レモンサワー(430円)と「肉じゃがコロッケ」(280円)を注文。この店に通って22年。東京スカパラダイスオーケストラのメンバーや、今は亡きナンシー関さんとこの藤八で飲んだことなど、楽しい想い出話に花が咲く。
「藤八」を田中さんは「東京になかったらいちばん困る店」と言う。
一方、田中さんがいない日本の音楽シーンもまた、みんなが困ること。
“最後の晩餐”はひとまず、当分オアズケ!ですね(笑)。
大衆割烹 藤八
住所:東京都目黒区上目黒3-1-4 グリーンプラザ 2F電話番号:03-3710-8729 営業時間:17:00~23:30(フードラスト22:30 ドリンクラスト23:00) 定休日 日曜・祝日の月曜取材・文
ジョー横溝(じょーよこみぞ)●音楽から社会ネタ、落語に都市伝説まで。興味の守備範囲が幅広く、職業もラジオDJ、構成作家、物書き、インタビュアーetc.と超多彩な50歳。ラジオのレギュラー番組として「The Dave Fromm Show」(interFM897)、著書に『FREE TOKYO〜フリー(無料)で楽しむ東京ガイド100 』など多数。