毛髪を抜き、毛根を食べるようになった息子
秋、息子の体に起きた異変に気付いた。頭頂部全体の髪の毛が全体的に減っているのである。ネットで検索すると、「抜毛症」という言葉があることを知った。よく観察してみると、息子は頻繁に自分の毛髪を抜き、毛根を食べていた。それが止まらなくなっていたのだ。慌てて医療機関に相談した。
ここでようやくDさんの目が覚める。高圧的な態度を改めて、息子に聞いた。
「中学受験、やめる?」
「やる」
ただし、志望校のレベルは下げることにした。PDCAサイクルの管理もスケジュール管理も一切やめた。
新たに定めた第1志望校に無事合格したときの息子の第一声は忘れられない。
「ああ、ほっとした……」
中学受験というレールに一度乗っかってしまうと、立ち止まって考えることは難しい。どの程度の難易度の学校なら納得できるのか、無理のない範囲で頑張らせるのか、お尻を叩いてでも上を目指させるのか、中学受験を途中でやめるという選択も視野に入れておくのか……。家族として中学受験に臨む方針を始めに決めておかないと、歯車が狂い始めたときにパニックに陥りやすい。
「息子に中学受験をさせたのは、それが東京的な響きに感じたからかもしれません。自分も高校受験や大学受験ではそれなりに成功体験があったので、息子もそこそこイケるんじゃないかと考え、御三家は無理にしても、東京っぽいブランド校に通わせたいと思っていました。しかし今思えば、中学受験の何たるかを全然理解していなかった」とDさんは振り返る。
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