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2018.07.04

ライフ

旅行前にご一読を。未知の旅路を描くマンガ『ふしぎの国のバード』

「大人のCOMIC TRIP」を最初から読む
旅行シーズンを前に、「海外旅行」を計画している人も少なくないだろう。歴史的価値のある観光地を巡ったり、味わったことのない料理に舌鼓を打ったりと、異国の地を巡る醍醐味は人それぞれ。しかし、共通するのは「未知の文化に触れる」ということだ。
それは、自分の価値観が根底から覆される素敵な体験かもしれない。旅のワクワク感を高めるために、旅立つ前に一度読んでおきたいマンガがある。
『ふしぎの国のバード』(佐々大河/KADOKAWA)
『ふしぎの国のバード』(佐々大河/KADOKAWA)。本作は、実在したイギリスの女性冒険家であるイザベラ・バードを主人公にしたトラベルマンガだ。その舞台となるのは、明治初頭の日本。開国間もない日本を「ふしぎの国」と捉え、イギリス人が未知の文化に触れていくさまを描いている。
本作を読めば、異文化に接するための理想的なスタンスが得られる。バードにとって、日本の文化は得体の知れないものばかりのはず。しかし、彼女は、その一つひとつを決して否定しない。
例えば、旅先で泊まることになった宿の衛生状態。そこはあまりにもボロボロなうえに、蚊や蚤が湧き、さらにはイギリス人の彼女を珍しがった日本人たちが障子の穴から部屋を覗くような状況だった。普通ならば逃げ出してもおかしくないにもかかわらず、彼女はそれも(当時の)日本の文化として受け入れようとする。さらには、そこで出会った車夫の優しさに触れ、滞在地での体験をポジティブに受け止める。
異国の地でトラブルに見舞われてしまったとき、その事実にとらわれてしまい、否定的な評価を下してしまう人が多いだろう。しかし、どんな国にも良い面と悪い面がある。それを踏まえてフラットな目線を持たなければ、決してその文化を深く知ることはかなわない。
また、道中で日本人を「猿」だと馬鹿にする外国人と出会ったときには、同じ西洋人として彼らに代わって頭を下げる。そんな彼女の姿からは、それぞれの国の文化に対する「敬意」が感じられる。未知のものと直面した際、それを否定するのは簡単なことだ。ただし、それは思考停止と同意。それでは、真の理解にはつながらないだろう。
バードの旅は横浜からスタートし、蝦夷ヶ島・アイヌの集落まで続く。その旅路は、当時の外国人にとっては異例中の異例。なにが起こるかもわからない。そんな状況でも彼女を突き動かすのは、「未知の文化を知りたい」という欲求だ。そして、それがただの興味本位ではないことは、彼女の行動から見て取れる。開国によって失われてしまうかもしれない、日本ならではの文化を目に焼き付けておきたい。そこにあるのも、他国の文化への敬意にほかならない。
本作の時代設定とは異なり、現代では外国へ行くことも容易になった。ネットを使えば、知らない情報がいくらでも手に入る。便利な一方で、未知との出会いで得られる感動は目減りしてしまうかもしれない。海外旅行に旅立つ前には、現地情報の収集はそこそこに、本作を一読して未知の文化に触れる際の心構えを学んでおくのも良さそうだ。
五十嵐 大=文
1983年生まれの編集者・ライター。エンタメ系媒体でインタビューを中心に活動。『このマンガがすごい!2018』では選者も担当。



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