定住はリスクが多い。3拠点生活ぐらいが理想
板羽さんは、家族ノマドをしたことで「自分にとって本当に必要なものがわかった」と話す。
「例えば、生活するために必要なモノは最低限でいいと気づきました。いろいろな国に行っているけど、じつは私、スーツケースも持ってないんですよ。旅先に持っていくのは少しの着替えと仕事道具ぐらい。モノなんてなくても、充実した毎日を過ごすことはできるんです。日本の自宅に帰ってくると、散らかっているわけではないのに、まるでゴミ屋敷のように感じます(笑)」。
ビジネスの悩みも家族ノマドが解決してくれた。独立した当初は、会社を大きくするべきか、スモールビジネスでやっていくべきか、悩んでいた時期があったという。起業仲間が事業を拡大するのを見て焦りを感じたこともある。
しかし、板羽さんは結局、スモールビジネスを選択するのだ。
「ニセコでは週末の夜に、1週間撮りためた家族写真をスライドショーで見る時間を作っていました。写真をみんなで見ているだけで、大笑いできて本当に幸せだった。この瞬間が自分にとって一番大切だと再確認できました。事業を拡大すると、その時間を保つのが難しくなります。だったら自分はスモールビジネスでやっていこうと。そう気づけたのも、家族ノマドのおかげです」。
もっとも、現在は子供が学校の部活や友だちとの予定で忙しくなり、「家族ノマドは一旦中止にしているんです」と言う。それでも、板羽さん自身のノマド生活はまだまだ終わらない。
「ひとつの場所に住み続けることには、何かあったときにすぐ逃げられないリスクがあります。日本を離れても、どこでもすぐに暮らせる態勢があれば安心じゃないですか。海外じゃなくても、夏は札幌、冬は沖縄、ほかの時期は福岡とか。私には2拠点、3拠点生活ぐらいがちょうどいい。その都度、快適な環境で働けたら楽しいですよね」。
ノマドワーカーとしてノーリスクで生きる。板羽さんは、どこまでもリスクヘッジを考える堅実な男性だった。
藤野ゆり(清談社)=取材・文