「育児より仕事のほうがはるかに楽」と感じた日々育休の期間は、生後7カ月の長男が1歳半になるまでの1年間。子育ての環境のことも考え、同時に鈴木さんの実家がある名古屋に引っ越すことにした。
そうして始まった主夫業だが、新天地では想像以上に大変な日々が鈴木さんを待っていた。その最たるものが、初めてとなる子育てのむずかしさだ。
「正直、なにが『育休』だと思いましたよ。だって、全然休む時間がないんです。世の中には『育休=仕事を休めて楽できる期間』という印象を持つ人もいるかもしれませんが、まったく逆です。仕事のほうがはるかに楽でした」。
念のためにいうと、鈴木さんはもともと子供好きで、家事も苦にならないタイプ。それでも、初めての育児は逃げ出したくなるほど大変だったという。
夜は子供を寝かしつけるとその間に離乳食を作り、鈴木さんも横になって目を閉じるが、すぐに夜泣きが始まる。昼寝も思うようにしてくれないので、そのたびに公園などに連れて行く。休む時間などなく、もちろん乳児である長男とはまだ言葉のコミュニケーションを取ることはできないので孤独を感じるし、毎日が予測のできない思うようにならないことの連続なのだ。
もちろん、合間には、掃除や洗濯、食事の支度などの家事もこなさなければならない。世の育児に専念している母親たちはこんな苦労をしているのかと改めて身をもって知ることになった。
しかも、当時はめずらしい育休中の主夫だったので、悩みやストレスをぶつけ合える育児中の友人もそばにいない。「気持ちをはき出せる場所がないこと、その孤独感がもっともつらかった」と当時を振り返る。
難しい子育てが楽しみに変わったのは育休の半ばを過ぎたころだ。
「大人になると、なにをするにしても、多くの場合は想定の範囲内のことしか起こらない。でも、子育ては違います。育てるというのは『思い通りにならなくても投げ出さずに向き合っていくことなんだ』と痛感しました」。
子供を育てているようでいて、実は自分自身も育てている。そのことに気づいてから、子供への向き合い方も以前と変わっていったという。
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