「大人のCOMIC TRIP」を最初から読む出張――見知らぬ土地に足を運び、商談をまとめ、帰路につく。その合間に、現地のグルメを堪能したり、隙間時間に観光地を巡ったりと楽しみを見い出している人も少なくないはず。しかし、その「移動手段」すらも楽しんでいる、という人はどれほどいるだろうか。
「それはもったいない」といわんばかりに、出張の意外な楽しみ方を示しているマンガがある。それが『前略 雲の上より』(竹本真 原作、猪乙くろ 作画/講談社)だ。本作のテーマになっているのは、飛行機と空港の魅力。ビジネスマンがいかに堪能するべきかを熱く説いている。
主人公は、若手サラリーマンの桐谷。彼は仕事への意識が高く、ちょっと斜に構えた態度が特徴のイマドキの青年だ。桐谷にとって出張は、ただのビジネス。飛行機での移動も、彼にとっては単なる交通手段でしかない。そんな桐谷に飛行機や空港の楽しみ方を伝授するのが、強面課長の竹内だ。
彼は根っからの飛行機と空港オタクで、その楽しみ方は桐谷の予想の斜め上をいくものだ。たとえば、「羽田空港」で待ち合わせをする際、その集合場所に指定するのは出発ロビーではなく展望デッキ。しかも、出発2時間前に到着し、目だけではなく耳や鼻を使ってその眺望を楽しむ。彼にとっては、燃料の匂いやジェットエンジンの音さえも、空港を楽しむためには欠かせないスパイスなのだ。
また、西日本一の巨大空港「関西国際空港」では、国内でも数少ない国際線の機内食が食べられるレストランを紹介。滑走路を見ながら機内食を堪能する時間がいかに有意義なのかを説いている。
このように、本作に登場するのは実在する空港だ。「羽田空港」や「関空」のような有名所はもちろん、「おいしい庄内空港」「山口宇部空港」「中部国際空港 セントレア」など、ちょっとマイナーな空港までを網羅しており、意外な目線からそれぞれの魅力を切り取っている。
竹内が提案する飛行機や空港の楽しみ方は、どれも驚くようなものばかり。だからこそ読者は、桐谷と一緒になって、そのマニアックさにちょっと引いたり、意外な目の付け所に驚嘆したりするだろう。そして気づく。自分はまだまだ出張を楽しめていなかった、と。
それはなにも飛行機に限ったことではないかもしれない。電車や新幹線での移動時にも、きっとまだまだ楽しみは隠れているはずなのだ。大切なのは、竹内のように純粋にそのシチュエーションを楽しむ気持ちを忘れない、ということ。そういう意味でも、本作は、出張に慣れてしまっているベテランビジネスマンにこそ読んでもらいたい一冊である。
五十嵐 大=文
’83年生まれの編集者・ライター。エンタメ系媒体でインタビューを中心に活動。『このマンガがすごい!2018』では選者も担当。