「大人のCOMIC TRIP」を最初から読む2020年、大学入試が大きく変わる。大学入試センター試験に代わる「大学入学共通テスト」が実施される予定なのだ。大きな違いは「記述式問題」が出題されること。これにより、子供たちはより思考力や判断力を問われるようになり、試験の難易度が上がるともいわれている。
そんな近い将来を見据え、「中学受験」を検討している親世代も多いことだろう。なぜなら、中高一貫校に通わせるメリットのひとつとして、高校受験対策に割く時間を大学入試に向けることもできるからだ。だが当然、中学受験のハードルは低くない。しかも、「中学受験は『親の受験』」といわれるほど、親の役割は大きい。はたして、今の中学受験最先端は、どうなっているのだろうか。
そこで読んでもらいたいのが、『二月の勝者-絶対合格の教室-』(高瀬志帆/小学館)だ。
「『受験塾』は『子供の将来』を売る場所です」という衝撃的なセリフが飛び交う本作は、受験塾を舞台にした物語。新米講師・佐倉と受験のプロである黒木を主人公に、現代の子供たちが直面する「中学受験」をリアルに描いている。
特筆すべきは、この黒木というキャラクターだ。彼の口から飛び出すのは、どれも辛辣な言葉ばかり。「君達が合格できたのは、父親の『経済力』。そして、母親の『狂気』」、「凡人こそ、中学受験をすべき」、「新規塾生は『金脈』です」……。いずれも冷徹であり、教育に携わる者の発言とは信じがたい。
しかし、実はそのどれもが的を射ている。受験は遊びではない。受験塾講師は、ビジネスとして子供たちを指導している。そして、子供たちは必死にそれに応えようとして、将来へのチケットを掴んでいく。そこに漂うのは、生きるか死ぬかにも似た空気だ。
そんな現実を知らず、生半可な気持ちで挑むのはもってのほか。中学受験とは、子供以上に親が冷静な目を持ち、挑戦すべき難関だと本作は示している。
本作は佐倉と黒木、両者の目線を軸に中学受験を切り取った物語であると同時に、それに関するさまざまな豆知識も散りばめられた作品だ。子供の適性の見極め方、受験校の選び方など、実践的な受験テクニックが満載。これから子供の受験に踏み出そうとしている親世代にとってみれば、恰好の「入門書」といえるだろう。
五十嵐 大=文
’83年生まれの編集者・ライター。エンタメ系媒体でインタビューを中心に活動。『このマンガがすごい!2018』では選者も担当。