「大人のCOMIC TRIP」を最初から読む世のなかには過酷な仕事がいくつも存在する。ソープランドの「ボーイ」という仕事も、実はそのひとつ。風俗産業と聞くと、どうしても主役として働く女性たちに目が向きがちだが、充実したサービスには裏方に徹する男たちの存在がある。ボーイと呼ばれる彼らの業務内容は一般的には知られていない。そこにはいったいどんな世界が広がっているのだろうか……。
『ソープランドでボーイをしていました』(玉井次郎 原作、久遠まこと 漫画/KADOKAWA)は、タイトルの通り、ソープランドの裏側を徹底的に描いた作品だ。原作者である玉井氏は、実際に吉原にある高級ソープランドでボーイとして働いた経験を持つ人物。2014年には、その経験をまとめた同名タイトルのルポルタージュを発表した。本作はそのコミカライズ版である。
玉井氏がボーイとして働くことになったのには理由がある。それは2011年3月11日に発生した東日本大震災だ。東北在住で仕事も金も失ってしまった玉井氏は、家族を養うために、「年齢不問、高給」という謳い文句を信じ、単身上京。ソープランドの門を叩くこととなる。
ボーイの仕事は激務だ。店内の掃除に始まり、ドリンクなど備品の補充、送迎車の洗車、女性たちの迎え入れ、客の送迎をする“立ち番”、そのほか、ボーイたちが生活する寮での雑務もある。しかも、ボーイの世界は縦社会。どんなに年齢が上であっても、先に入った者の言うことは絶対だ。事実、50歳である玉井氏は、40歳の先輩からことあるごとにどやされてばかりいる。
また「働く女性に手を出すこと」は当然禁止だが、それどころか馴れ馴れしく話しかけるのもご法度。虫の居所が悪い女の子に告げ口をされてしまえば、どんな目に遭わされるかわからない。ソープランドのボーイとは、激務なだけではなく、常に気を張っていなければならず、ストレスにまみれた仕事なのだ。
本作の第1巻では、そんなボーイの仕事について丁寧に描かれている。そして、意外なことにアダルト的な描写はほとんどない。あくまでも本作は、ソープランドに勤務する“男性従業員”の日常を掘り下げているのである。
センセーショナルな題材をマンガへと昇華させ、お仕事モノとしても秀逸な本作。普段はあまり知ることができない世界に触れて知見を広げる……いわば“大人の社会見学”という意味でも、有益な一冊と言えるだろう。
五十嵐 大=文
’83年生まれの編集者・ライター。エンタメ系媒体でインタビューを中心に活動。『このマンガがすごい!2018』では選者も担当。