「大人のCOMIC TRIP」を最初から読む不倫はいけないこと。それは誰しも理解していることである。しかし、ここ数年テレビでは芸能人や政治家の不倫スキャンダルの報道が目立つようになった。みんなどうしてそんなに不倫に走ってしまうのか。そこには、甘美な背徳感があるのだろうが……。
『不倫食堂』(山口譲司/集英社)は、そんな不倫を題材にしたグルメ×ラブコメマンガ。この3月からフジテレビオンデマンドで実写ドラマ化もしている大人のエンタメ作品である。
主人公である山寺隆一(やまでら・りゅういち)は、都内の企業に勤務する、ごく一般的なサラリーマン。愛する妻と娘のもとを離れ、営業マンとして全国を飛び回っている。彼の楽しみは、地方のグルメを堪能すること。その土地ならではの食材に舌鼓を打ち、家族には内緒で食を楽しんでいるのだ。
ただし、それだけでは収まらないのが山寺という男。図らずも、毎度その土地で出会った人妻たちと一夜の営みを交わしてしまう。山寺にとっての「いただきます」とは、上質な食材と人妻、双方に向けられた最大の賛辞ともいえるだろう。
本作には、実に魅力的な人妻たちが登場する。浜松で飲み屋を経営する女将、秋田で再会した同級生、佐賀で商談を交わした鉄の女。いずれも個性豊かで、山寺ならずとも、思わず二度見をしてしまうような美人ばかりだ。誤解を恐れずに言うならば、山寺が彼女たちと過ちを犯してしまう気持ちは十二分にわかってしまう。
また、山寺が彼女たちと関係を持つきっかけとして描かれているのが、「同じ食卓を囲む」ということ。食欲と性欲はイコールだ、という説を聞いたことがあるだろうが、本作においては、それが如実に表現されている。先程まで高級食材に貪りついていたはずが、気づけば人妻を喰らっていた……なんてシーンの連続なのだ。この山寺、実に単純な男である。
しかしながら、どこか憎めないのも事実。食欲旺盛な山寺が、次はどんな人妻と関係を持つのか。アンモラルな行為をテーマにしつつも、本作がカラッとした読後感に包まれているのは、山寺をとことんダメなやつとして描いているからだ。不倫を笑い飛ばすことができるマンガ。本作はまさに唯一無二の作品かもしれない。
あくまでも本作は、不倫をエンタテインメントへと昇華させたマンガだ。それを不道徳だと批判するのはナンセンスかもしれない。現実にはやってはいけないことだということを理解した上で、その背景にあるドキドキ感や背徳感を味わってみるのも、たまにはいいのではないだろうか。浮気の虫は、このマンガで追い払う。そんな気持ちで臨んでみてほしい一作である。
五十嵐 大=文
’83年生まれの編集者・ライター。エンタメ系媒体でインタビューを中心に活動。『このマンガがすごい!2018』では選者も担当。