「大人のCOMIC TRIP」を最初から読む仕事が安定し、子供も大きくなるなど、ライフステージの変化に伴い、引っ越しや物件購入を考えている人たちも少なくないだろう。そこで大事になるのが、不動産屋との付き合い方だ。家を探すときにしかコンタクトを取らない分、“上辺”だけの付き合いになってしまう。そんなときに参考になるのが、『正直不動産』(夏原武 原案、水野光博 脚本、大谷アキラ マンガ/小学館)だ。
原案を担当する夏原さんは、詐欺師たちの攻防を描いた『クロサギ』の原作者。また、脚本を担当する水野さんは、児童虐待をテーマにした『ちいさいひと 青葉児童相談所物語』の生みの親。社会の暗部を暴き出してきた両者がタッグを組んだ本作は、不動産業界の闇をあぶり出す作品になっている。
本作の主人公・永瀬財地(ながせ・さいち)は、登坂不動産に務めるエース営業マン。成績は常にトップのやり手だ。しかし、その顔はまさに極悪。売上のためならば嘘をつくことも厭わず、誠実な顔をしながら客を騙すのである。「正直者がバカを見る」。それをモットーに、口八丁で成績を伸ばしてきた。
ところが、担当していた物件の地鎮祭で謎の石碑を壊して以来、なんと嘘がつけなくなってしまうのだ。口をついて出るのは本音ばかり。客の前で「こんなクソみたいなオーナーの物件には、金をもらったって、住まないけどな」と言い放つ始末。嘘でのし上がってきた永瀬に訪れたとんだ災難。本音しか口にできなくなった営業マンは、嘘だらけの不動産業界をどう生き抜いていくのか――。
本作はそんな永瀬が奮闘するさまを追いかけたお仕事モノである一方、不動産業界の闇を暴き出す問題作という側面にも着目したい。例えば、第2話で描かれるのは、悪徳オーナーの存在。敷金・礼金をせしめるため、入居者に嫌がらせを行い、短期間での入退去を繰り返すような極悪オーナーがいるというのだ。しかし、悪徳不動産屋は、その事実を知っていたとしても見て見ぬふりをして、物件を勧める。それはすべて売上のためなのである。
本作にはこのようなエピソードが満載だ。しかし、いずれも嘘をつけない永瀬によって、白日のもとにさらされる。それはそのまま登坂不動産へ物件探しにやって来た客のためになり、ひいては我々読者のためともなるかもしれない。
不動産は、人生において非常に大きな買い物だ。だからこそ、絶対に失敗したくないだろう。もしも、引っ越しや物件購入を考えている人は、まず本作から不動産業界について深く理解してみることをオススメしたい。
五十嵐 大=文
’83年生まれの編集者・ライター。エンタメ系媒体でインタビューを中心に活動。『このマンガがすごい!2018』では選者も担当。