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2018.03.08

たべる

池袋の旅酒場で、ギャンブル好きの看板娘に「おっと」が飛び出た

看板娘という名の愉悦 Vol.5
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。雰囲気がよくて落ち着く。「行きつけの飲み屋」を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。
昨年11月、早稲田大学OBの若者たちが「旅と酒」をテーマにしたバーを開いた。場所は池袋駅西口を出て徒歩5、6分の飲み屋街。
池袋は野良猫の眼光も鋭い
1、2mまでは近づけたが、それ以上はノーサンキューだったようで、ぷいっと去っていった。
こちらの階段を降りる
“ザ・飲み屋街の雑居ビル”といった風情の少々ドキドキする外観。一瞬立ち止まって、「おっと」という声が出た。
店の名前は「旅する酒場 サカタビ」
一歩中に入ると、大賑わいだった。
池袋らしからぬ内装
もちろん、看板娘もいる。
カシスリキュールを愛する梨沙さん(28歳)
埼玉県上尾市出身。現在は会社員だが、春から転職が決まっているそうだ。店の経営者が友達なので、ボランティアとしてときどきカウンターに立つ。
スパークリング日本酒を持つ共同経営者の八木彩香さん(27歳)
なんと、取材当日が八木さんの誕生日。彼女の誕生日を祝いに来た人々で賑わっているということか。その奥の一見客にしか見えない男性は、もう一人の共同経営者、大樹さん(27歳)。後で梨沙さんとの面白い絡みを見せてくれる。
ちなみに、八木さんは自転車で日本一周、大樹さんは世界一周の経験がある。本気の旅好きタッグなのだ。
フェンシングで全国3位になった女性もいた
この4人は、いずれも早稲田大学スポーツ科学部出身。お客さんの中にも同窓生が大勢いるそうだ。
さて、最初の一杯は何をいただこうか。ドリンクメニューを拝見する。
唐突に挿入される猫への思い
梨沙さんに「さっき、近くの路上にも野良猫がいましたが、猫は好きですか?」と聞いてみると、「大好きです! 実家でも『すだち』っていう名前の黒猫を飼っています」とのこと。なかなか幸先がよい。
結局、注文したのは梨沙さんがこよなく愛するという「カシスウーロン」。先ほど手に持っていたのは、彼女のキープボトルだ。
「はい、どうぞ〜」
「カシスウーロン」を飲むのは、もしかして人生で初めてかもしれない。なるほど、たまにはこういう甘酸っぱいお酒も悪くない。
コースターは八木さんの知人デザイナーが作った
ここで、八木さんが思い出したように言う。「あっ、先日1000人目を記録したお客さんも来ていますよ」。
「はいはーい、僕です!」
彼は上(かみ)さんという珍しい苗字の持ち主。領収書をもらうときは「ウエで」と言えば楽だが、自分の苗字に誇りを持っているため、「神様の神じゃなくて、上下の上です」ときっちり伝えるそうだ。
あらためて店内を見渡すと、黒板にさまざまな告知事項や店の五カ条などが書かれている。
野鳥の会、写真教室、武道部への勧誘
「店長にすぐテキーラ呑ますべからず」
「テキーラ、めっちゃ飲まされるんですよ。でも、お酒は好きなので、正直まんざらでもないなと(笑)」(大樹さん)
なんとなく懐かしい感覚に襲われる。そうか、大学時代の部室のような空気感なのだ。
一方、楽しそうに働く梨沙さんに趣味を尋ねると、「麻雀とパチンコですね」。本日2回目の「おっと」が出る。麻雀仲間と雀荘で撮った記念写真も見せてもらったが、それは予想の斜め上を行く修羅場だった。
この空き缶と空き瓶は?
「チーしたらひと口飲む、ポンしたらまたひと口飲むっていうルールで、要するにみんなお酒を飲みたいだけ(笑)」
「こいつ、めっちゃ性格悪い麻雀を打つんですよ」
梨沙さんも盛大に酔う派で、ここでは書けないファンキーな失敗談も教えてくれた。気になる人は直接聞いてみてほしい。
「あっ、どうしよう! めっちゃ泡出た!」
笑いながら大樹さんが言う。「泡を捨てて注ぎ足せばいいんだよ」。「捨てます! ホントごめんなさい!」。
「注ぎ直しました〜」
今は転職の合間で、自称“プロニート”。パチンコ店には週5で通っているそうだ。「チキって1円パチンコしかやらないから、負けてもせいぜい8000円ぐらいです」。
さて、2杯目はスパークリング日本酒の「澪」
「私、お酒は弱いはずなのに、これだけはスイスイ飲めちゃって危険」と八木さんが言う。ああ、本当だ。シャンパン感覚で喉の奥へと吸い込まれていく。
「澪」が一瞬でなくなったので、棚に目をやる。東京ではレアな芋焼酎、「茜霧島」のボトルがずらりと並んでいた。これは、店長・大樹さんの趣味で仕入れているそうだ。
オレンジ芋の「タマアカネ」が原料
いただきましょう
うん、間違いない。製造元の宮崎・霧島酒造を取材で訪れた記憶が蘇ってくる。その後の打ち上げで、酒造の方々が延々と霧島シリーズを飲み続けていたのが印象的だった。一向に帰る気配がないのだ。
さて梨沙さん、最後にメッセージをお願いします。
コースターのイラストを模写してくれた
とくにメッセージらしきものは見当たらないが、「酒を酌み交わせばわかる」。そう言われているような気がして、最後のひと口を飲み干した。
ほうぼうで会話が弾んでいるサカタビの客たちも、一向に帰る気配がなかった。
【取材協力】
旅する酒場 サカタビ
http://toranacompany.com/sktb/
https://www.instagram.com/sakatabi000/
https://twitter.com/sakatabi000
取材・文/石原たきび
 


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