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2018.02.03

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闘病生活を経た中村獅童が今、大切にする「笑い力」

「笑いの大切さを知ったから、春の舞台では大いに笑わせたい」

1972年生まれ、東京都出身。祖父は名女形と謳われた三代目中村時蔵。父はその三男・三喜雄。8歳で歌舞伎座にて初舞台を踏み、「中村獅童」を襲名。肺腺ガンで療養中だったが昨年11月に舞台復帰。プライベートでは12月に息子が誕生した。 ブルゾン42万円、Tシャツ2万円/ともにエンポリオ アルマーニ(ジョルジオ アルマーニ ジャパン 03-6274-7070)
ある日、歌舞伎役者・中村獅童のインスタグラムには「8年ぶり」というひと言とともに、新しい髪型になった写真がアップされた。
心境に変化があると髪型を変えるのか、思えば人生の転機でも斬新な髪型で現れた。父親が歌舞伎役者を廃業していたため後ろ盾がなく、その他大勢ばかりを演じていた彼は、映画『ピンポン』の重要な役をスキンヘッドで演じ切った。
今回は、なぜ、髪を金色に染めたのだろう。本人を前にして、ふと、その真意に迫ってみたくなり、そのまま話を振ってみた。すると、彼は「仕事を休んでいた間にいっぱい考えさせられてね」と言って、実に感慨深そうな表情を浮かべた。
「簡単に言えば気分転換。ガンになって、気持ちが塞いでしまったから。なった人はみんな言うけど、僕にとっても本当に予期せぬ出来事で、よく思考の坩堝(るつぼ)にハマったんだ。舞台に立つとは何なのか、演じるとは何なのか、生きるとは何なのかって」。
病に伏せるまでがむしゃらに“中村獅童”の名前を知ってほしい、負けたくないという一心で、ペース配分もせずに突っ走ってきた。
「『何を生き急いでいるんだ』ともよく言われた。それが、病を患ったせいか、45歳という年齢ゆえか、今、この瞬間を愛おしく感じたい、大切にしたいという気持ちが芽生えてきたんだ。マラソンならゴールを一目散に目指すのではなく、美しい景色に出会ったら立ち止まる、って感じ。人は未来に向かって生きているけど、それを作るのは今。その価値観をガンは教えてくれた。皮肉でもあり、ありがたくもある」。
柔和な表情で、しかし弾力のある声で語る彼は、今春、笑いに挑む。三谷幸喜による幕末群像喜劇『江戸は燃えているか』の舞台に立つのだ。
「喜劇はイイ。僕は、湯治を兼ねて、とある温泉によく行くんです。いろんな病の方が集まってくるんだけど、みんな底抜けに明るい。笑いは免疫力を高めるらしいから」。
闘病経験者による語らいは心も裸にするのか、胸に響く言葉もあった。「あるとき、『僕がガンになったのはストレスのせいだ』と言った人がいてね。責任ある役職に就き、常に人のことばかり気にしていたんだって。で、『獅童さんが元気な姿を見せてくれることが僕らの生きる糧だ』なんて言うんだ。あとでこっそり泣いちゃった。人に夢や希望を与えるのが僕の仕事。これも闘病生活で痛烈に実感させられたこと。だから、今、僕は大いに沸かせたい、笑わせたい」。
身をもって笑いの意義を知った男が、今度は笑わせる立場に回る。彼は板の上でどんな姿を披露してくれるのか。期待せずにはいられない。

『江戸は燃えているか TOUCH AND GO』


作・演出:三谷幸喜/出演:中村獅童、松岡昌宏、松岡茉優、高田聖子、八木亜希子ほか/会場:新橋演舞場(東京都中央区銀座6-18-2)/公演日程:3月3日(土)〜26日(月)
www.shochiku.co.jp/play/schedules/detail/edomoe/
舞台は幕末の江戸。江戸城の無血開城を目指す西郷隆盛は、幕府側の代表・勝海舟と会い降伏をすすめる。だが、勝という男は気が小さいうえ喧嘩っ早い。まともに交渉させたら間違いなく決裂。江戸が火の海に包まれるのは目に見えている。そこで立ち上がったのが勝家の使用人。和平に向けて一世一代の大芝居を打つ。
三浦安間=写真 長瀬哲朗(UM)=スタイリング masato(marr)=ヘアメイク 甘利美緒=取材・文


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