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2018.01.12

ライフ

職場の20代にたとえ話をしたら、「比喩が古い」と伝わらなかった


職場の20代がわからないVol.5
30代~40代のビジネスパーソンは「個を活かしつつ、組織を強くする」というマネジメント課題に直面している。ときに先輩から梯子を外され、ときに同僚から出し抜かれ、ときに経営陣の方針に戸惑わされる。しかし、最も自分の力不足を感じるのは、「後輩の育成」ではないでしょうか。20代の会社の若造に「もう辞めます」「やる気がでません」「僕らの世代とは違うんで」と言われてしまったときに、あなたならどうしますか。ものわかりのいい上司になりたいのに、なれない。そんなジレンマを解消するために、人材と組織のプロフェッショナルである曽和利光氏から「40代が20代と付き合うときの心得」を教えてもらいます。
「職場の20代がわからない」を最初から読む

 

説得力を高めるための「たとえ話」に登場させるスターは、世代によって違う

さて、今回のテーマは「流行」です。私たちが何かを説明するときにたとえ話を使うのは、誰もが知っている事例を使うことで、説明を簡素化するとともに、内容の説得力を高めるためです。特に、効果のあるのは、スターにまつわる事例です。自分が尊敬するあの人もこんな場合こんな風にしていたのか、だったら僕もそうしてみようかな……という風に持っていきたいということです。
私もメンバーに何かを教える時に、自分だけの経験に基づくだけでは、やや力不足かなという場合は、「スティーブ・ジョブズもこう言っていた」「イチローも」とみんなが知っている流行りの有名人の力を借ります。ところが、世代が大きく異なると、流行していることも、「誰もが知っている」スターも違ってきて、かえって話が通じなくなります。私は人事部長や経営者向けのセミナーで、たまに長嶋茂雄さんのたとえ話をするのですが、20代の学生向けセミナーだと残念ながらほとんど伝わりません。隔世の感がありますが、ミスターも引退されて長くなるので、仕方ないことかもしれません。
 

若者文化を探ろうとネットを検索しても、オッサンは閉じ込められている

そこで、我々オッサン世代の中でもある種の人々は、若者にわかる事例を探し出そうといろいろと努力をします。特に、最近の若者はネットをよく見ているということで、YouTubeやInstagramなどのネットを一生懸命眺めたります。
しかし、ここにある落とし穴は、ネットは基本的には自分で検索して目的の情報にたどりつくメディアであるということです。オッサンは、オッサンが関心のあるものを検索してオッサンのネット世界を作り出します。オッサンの検索データから情報を得たAIなどからレコメンドされてくるものは、すべて自分になじみ深いオッサン世界のものです。ネットはもちろん無限に広がる世界ですが、下手するとオッサン達が独力でたどりつけるのはオッサン色の強い、オッサンには心地良い世界だけということにもなりかねません。せっかく若者文化を知ろうとしているのに、そうさせてくれないのが切ないことですね。
 

ちょっと前の流行りをたとえ話に引用することが、最もカッコ悪い

その結果、長い道のりを経て、ようやくオッサンにまでたどりついた若者文化は「ちょっと前」のものであることが多くなります。東大生に就職一番人気の企業は既に成熟した下り坂企業であるとか、田舎の女子高生まで到達したファッションは既にダサいとか言われるのと似たような感じで、オッサンにまで到達したちょっと前の若者文化は、実は若者から見て一番カッコ悪いものです。
なぜならば、ちょっと前に流行ったもの、すなわち今は流行っていないすぐ消えたものは、結局は一過性のものであり普遍的価値を獲得できなかった敗北者だからです。それをわからずに、「これは最新の若者文化だ」と誤解して、意気揚々とたとえ話に使ってみれば、もちろんそれは逆効果です。努力は認めてくれるかもしれませんが、若者からすれば、「もう飽きられたものだよ」「無理しちゃってカッコ悪い……」「すり寄ってきている」「日和っている」ともの見えてしまうかもしれません。これでは若者からリスペクトを勝ちえて、動かすことなど難しいことでしょう。
 

オッサンは歴史を学びなおせ。歴史的スターは、普遍的な価値を持っている

では、どうすれば良いのか。それは、若者にとっても、オッサン世代にとっても、等距離にあるものを利用すれば良いのです。それは「歴史」です。若者とオッサン世代の年齢差は大きいとは言ってもたかだか10~20年でしょう。ところが、例えば、織田信長の生きていた時代と今との間は400年以上。若者と織田信長の差と、オッサンと織田信長の差は、誤差の範囲です。織田信長という存在は、若者とオッサンにとってはほぼ等距離、共通の常識と言って良いでしょう。
他にもカエサルやらナポレオン、ブッダにキリスト、スーパースターは歴史の中にいくらでもいます。彼ら英雄を、何かのたとえ話で使ったとして、「古い」と非難されるでしょうか。いや、もちろん古いのですが、上述の「ちょっと間で消えた価値の低いもの」とは真逆で、その古さは、普遍的な価値を持つために極めて長い時間を経ても今に残ったというカッコいい古さです。このように、我々オッサン達は下手に流行を追うよりも、歴史を学びなおし、それによって若者とコミュニケーションを取るほうが自分の身の丈にも合い、かつ彼らのリスペクトも勝ちうることのできる良い方法ではないでしょうか。
文/曽和利光
株式会社 人材研究所(Talented People Laboratory Inc.)代表取締役社長
1995年 京都大学教育学部心理学科卒業後、株式会社リクルートに入社し人事部に配属。以後人事コンサルタント、人事部採用グループゼネラルマネジャーなどを経験。その後ライフネット生命保険株式会社、株式会社オープンハウスの人事部門責任者を経て、2011年に同社を設立。組織人事コンサルティング、採用アウトソーシング、人材紹介・ヘッドハンティング、組織開発など、採用を中核に企業全体の組織運営におけるコンサルティング業務を行っている。
 


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