OCEANS

SHARE


「じゃあ、やってみましょうか」と促され、いざ挑戦。ほぼ同じやりかたで点てることができた。ちょっと気になるのはシャカシャカの音が違ったことくらいか。しかし、飲んでみると……苦い! 口当たりも……悪い! 近藤さんほど上手く点てられないにしても、こんなに違いがでるなんて驚きだ。秘密はあのシャカシャカに違いない。
「茶筅はかき混ぜるものではありません。スナップをきかせて縦に小刻みに動かすのですが、茶碗の内側にぶつけつつ、竹のしなりを利用しながら動きを増幅させるのです。竹なので茶碗に傷がつくこともないので、安心して下さい。ある程度泡立ったら、徐々に茶筅の先を表面に近づけて、大きな泡を潰しながらきめ細かい泡だけを残していき、最後に“の”の字を書くようにして終了です」

なるほど、先に教えて下さいよ。ちなみに、泡は苦みや渋みを吸着しつつ、口当たりをまろやかにする効果があるという。実は、エスプレッソも同じ考え方。コーヒーと抹茶に美味しく飲むための技法が共通しているのは、ちょっと興味深い。
さて、近藤さんにアドバイスをもらって再挑戦。しかし、スナップをきかせながら竹のしなりを利用するのは意外に難しい。近藤さん曰く「茶筅を軽く握ってブラブラさせる感じです。最終的には頭で考えず体でおぼえるしかないですね」とのこと。ただ、やっていれば、ある程度までならすぐに慣れるという。

茶禅一味(ちゃぜんいちみ)という茶と禅の関係を表す言葉があるが、やってみるとそれは作法だけじゃないことがよくわかる。もし今、脳波を測ったらアルファ波が出まくりなんじゃないだろうか。忙しい日々、仕事が終わって家で一人、お茶を点てながらなにも考えず、自分をリセットする時間が持てるのは贅沢かもしれない。
近藤さんは、「ひとりで無心になれるのも独服の魅力ですが、私はパートナーや友人にお茶を点てることで、日々のコミュニケーションが生まれることが、最大のメリットだと考えています」と語る。特に友人に振る舞うと、イベント感もあり喜ばれることが多いという。

「お茶を嗜んでいる男性はそう多くはありません。それだけに、趣味でお茶と答えれば、覚えてもらえることも多い。これはビジネスでもメリットです。話のきっかけにもなるし、ここだけの話、結構モテると思いますよ(笑)。それは冗談にしても、本格的にやれば所作も身につきますし、日本の歴史や文化、芸術にも詳しくなる。2020年に向けて、外国人との交流が増えるこれから、大きなメリットになるでしょう」
ちなみに近藤さん、料亭などで食事をすると、お店の人に「なにか芸事をやられていますか?」と尋ねられることが多いという。それは、出た料理をすぐにいただいたり、膝をついてふすまを開閉したりというちょっとした所作からにじみ出るのだとか。
「見る人が見るとわかるのだと思います。お茶は相手の気持ちを思ってもてなすもの。私もお茶を始めてから、相手の立場で考えることができるようになりました」
これこそ、大人の男に必要なスキルじゃないか。しかも、お茶は年齢を重ねても楽しめる。むしろ、円熟味を増していく趣味。不惑の40歳を迎えるにあたり、一度は経験してみてはどうだろうか。そこではまれば、趣味としてはオススメかもしれないぞ。
 
取材・文=コージー林田


SHARE

次の記事を読み込んでいます。