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10月27日の発売開始後すぐに10万部を突破し、早くも「2017年最高の書」と高い評価を得ているナイキ創業者の自伝『
SHOE DOG(シュードッグ)』。
「もの言う株主」として多くの日本企業を分析、経営への提言を行ってきた村上世彰氏に、投資家として初期ナイキを評価してもらった。
聞き手:佐藤 朋保(東洋経済新報社 翻訳委員長)
投資しろと言われたら、逃げていた
――創業当時のブルーリボン(ナイキの旧社名)に投資してくれと言われたら、どう判断しますか?逃げていたでしょうね(笑)。というのも、フィル・ナイトが立ち上げたブルーリボンという会社は、まさに家内工業のようなもの。会社組織としての体裁はまるでない。
ブルーリボンのオフィスを初めて訪れたオニツカ氏が、ベニヤ板の仕切りや、やりがささった割れた窓などを見て絶句するシーンがあります。きっと私でもそうなると思う。
それに、フィル・ナイトは、その訪問以前に、オニツカ氏に手紙で「世界をまたにかける本社」だとハッタリを利かせていた。聞いていた話と現実とのこの落差。オニツカ氏は寛大に接したようですが、私なら、「ああ、うそつきと会ってしまった」と思ったかもしれません(笑)。
思うに、フィル・ナイトはリスクを取りすぎています。非常に危ない。たとえば、社員のウッデルの両親が貯金をはたいて、8000ドルをフィルに渡していますよね。しかも、ウッデルは事故で半身不随となったために、医療費で生活に困窮しているはずなのに。内輪で、そういった「いちかばちか」のめちゃくちゃなことをやっている。
これこそがベンチャー、とも言えるかもしれませんが、私はリスクをとるよりも、期待値で考えます。期待値で考えるというのは、一言で言うと、過去と現在の情報・経験から導き出した予測で判断するということ。だから、フィル・ナイトのようないちかばちかの経営に投資することは、私にはできない。
しかし、そこには、会社を育てるというダイナミズムがあり、そういうベンチャーだからこそ成功するとも言える。そこに価値を見いだし、共にナイキを育てたのが、日商岩井だったのでしょう。
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