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2017.11.28

ライフ

元サッカー日本代表・都並敏史さんと「もつ焼き」社会科見学


行きつけのもつ焼き屋で、都並さんと偶然の出会い。もつ焼き談義で意気投合

「もつ焼き」が好きだ。ひとりで暖簾をくぐり、大将に頭を下げ常連さんの間に腰を下ろす。まずは瓶ビールと煮込みを頼んでから、今日はどの部位を食べようか、と板書きのメニューを眺めて思案する。そのときに私は「ああ、大人になって良かった」と心底実感するのである。
ある日のこと、東京の行きつけのもつ焼き屋で偶然にも出会ったのが、元サッカー日本代表“狂気のサイドバック”こと都並敏史さんである。恐縮しながら声をかけると、その店には先代の大将の頃から通っているという。私は通い始めて8年ほどなので、大先輩のご常連である。当然のように「もつ焼き」談義に花が咲いた。
私は思った。この偶然の出会いを一度で終わらせるのはもったいない。都並さんと“もつ焼きという名の愉悦”について、もっと語り合いたい。そうして、互いの連絡先を交換し、再会を誓い合ったのだった。

品川の食肉市場にある「お肉の情報館」で、まずは「食肉」について学ぶ

都並さんとの再会は、ある晴れた日の秋。お忙しいスケジュールの中、午後を丸々空けていただけたのである。であれば、単にもつ焼きの名店を巡るのではなく、新鮮な肉がどのようにして生産・解体・流通されているのか、その勉強から始めたい。題して「もつ焼き社会科見学」。よって久々の都並さんとの再会はお店ではなく、品川の食肉市場正門となったのである。
食肉市場の正門で待ち合わせ
「ちょっとグロいの、苦手なんだよね。大丈夫かな」と心配気味の都並さんと訪れたのは、食肉市場センタービル6階にある「お肉の情報館」。ここでは、新鮮で安全なお肉がどのように安定的に供給されているのか、その歴史や実際の解体工程などが展示されている。残念ながら、館内は全て撮影禁止。いまだに食肉市場に対する差別や偏見があることへの対応らしい。
実際の解体作業を解説するDVDを視聴する。品川の食肉市場では、1400頭の豚が解体されているのだが、一頭処理するごとに手を洗い、83度以上のお湯で機器を消毒し、衛生検査も複数回に渡って実施されている。もつ焼きに欠かせない内臓も、何度も丁寧に洗浄されて市場に提供されていく様子がとてもよくわかる。
「お肉の情報館」のパンフレット。勉強になる
「すごいよね。新鮮なもつがどうやってできていくか、よくわかった」とDVDを観ながら頷く都並さん。「実は市場が大好きで、川崎とかによく行くんですよ。市場好きが高じて、法人カードまで作っちゃった」とのこと。お肉の市場取引についても知識が大変豊富で、私は「サッカー愛と同等かそれ以上にもつ焼き愛がハンパない!」と驚嘆させられた。

小学生のときに「もつ焼き」デビューした都並さんが語る、いい店の見つけ方

そもそも日本では、仏教の影響で表向きには肉食が禁じられていた時代が長かったとされる。全面解禁されたのは明治以降。牛鍋ブームが巻き起こり、食肉や牛乳の需要が高まったこと、武士の失業対策等で酪農が急速に広まり、明治の中期には東京は日本一の酪農の地となった。もつ焼きの発祥には諸説あるが、明治後期には串に刺したもつをタレで焼いた屋台があったという。もつ焼きの名店が東京に集中しているのも、そのあたりに要因がありそうだ。
ところで都並さん個人のもつ焼きの歴史は、いつからなのだろう。
「オヤジが赤ちょうちん好きで。小学生のときに、もつ焼き屋に連れてってもらってましたね。オヤジたちが日本酒を飲むの真似て、お湯を徳利に入れてもらってそれをお猪口で飲んでました」
なんと小学生で、もつ焼きデビューをしていたとは! 私なんて、35歳でようやく暖簾をくぐれるようになったのに……。そんな都並さんの、いい店の見つけ方とは?
「基本的にはひとりで行きます。ネットで調べたりはせず、飛びこみで開拓します。カンバンとグラスを確認すれば、だいたいいい店かどうかがわかります」とのこと。店のカンバンに「菊正宗」「高清水」「会津ほまれ」の名前が入っていること、ビールグラスにメーカーの名前が入っていないこと、など都並さんが長年培った目利きの法則があるという。やはりこの人はただものではない。
品川食肉市場近くの路地裏でお店をチェック
次回は、いよいよ武蔵小山のもつ焼きの名店に潜入。常連さんと共に“もつ焼きの流儀”を語り合います。
都並敏史
1961年東京生まれ。1980年に現在の東京ヴェルディの前身である読売クラブに所属。19歳で日本代表に選出され、10数年間にわたり主力メンバーとして日本代表チームを牽引した。現在は、サッカー解説者やブリオベッカ浦安のテクニカルディレクターとして活躍。日刊ゲンダイで『安旨サイドバック』を連載していたほどのB級グルメ好きでもある。
取材・文/藤井大輔


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