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2017.11.19

ライフ

介護する家族の心が楽になる、認知症対応のヒントとは?


「37.5歳のもしも……」を最初から読む
あまり考えたくはない未来の「もしも」が、人生には必ずある。夫婦のこと、子どものこと、両親のこと、会社のこと、健康のこと、お金のこと、防災のこと――心配しだすとキリがないけれども、見て見ぬフリをするには、僕たちもそう若くはない。今のうちから世の中の仕組み、とりわけ社会保障(セーフティネット)について知っておくことは、自分の大切な人たちを守るためにも“大人の義務教育”と言える。37.5歳から考える未来の「もしも」――この連載では「親の認知症」について全6回で考えていきたい。

遠い関係の人、緊張を伴う相手ほど認知症の症状が出にくくなる

認知症の症状には、新しいことを覚えられなくなったり(記憶障害)、時間や場所がわからなくなったり(見当識障害)する「中核症状」と、それが元となり周囲の環境や人間関係が影響して引き起こされる「行動・心理症状」のふたつに大別されます。「行動・心理症状(周辺症状)」は、周囲の人には異常な行動に映るため、以前は「問題行動」とも呼ばれていました(現在では患者本人を中心に捉える考え方が主流となり、介護する側からの視点である「問題行動」という言葉は使われなくなってきました)。
「行動・心理症状」の主な例として、
・元気を失い、引きこもりがちになる
・あてどなく歩き回る
・外に出て戻ってこれなくなる
・大事なものを隠したり、無くしたりする
・「あなたが盗んだんでしょ」と訴える
・「家が乗っ取られる」などの妄想を話す
・便をさわったり、つけたりする
・暴言や暴力をふるうようになる
などが挙げられます。
これらの行動・心理の背景には、本人の不安や苛立ちがあるとされます。記憶障害や見当識障害などの「中核症状」は治りにくいのですが、「行動・心理症状」は本人の心を理解して家族や周りの人がうまく支援することで、改善できる可能性が高いとされています。
しかし不思議なことに、家族にとって心身ともに疲弊するような症状が、外では出現せず家の中だけで顕著に現れることが多いのです。なので家族が「大変だ」と訴えても、周囲の人は「そこまで大げさに言わなくても」とギャップが生じることがあります。同じように病院での診察や、専門職の訪問があったときには日頃とは打って変わってしっかりした態度をとるので、認知症の程度が軽くみなされてしまうこともあります。これは、遠い関係の人、緊張を伴う相手ほど症状が出にくくなる(出現強度が弱くなる)ためと考えられます。

叱責や叱咤激励より、感謝や共感の言葉を使うことで、お互いが楽になれる

「懸命に介護をしている家族に対して、ときに意地悪ともとれる態度を示すのは、強い信頼感の裏返し」と認知症サポーター養成講座のテキストにも記述されているのですが、そうは言っても家族としては「この状態がいつまで続くのだろうか」と暗たんたる気分になるのも無理はありません。「強い信頼感」に応えようとすることで、必要以上に自分自身を追い込んでしまい共倒れになってしまう家族もいます。
ひとつの答えとしては、「本人も介護する側も、無理をしすぎない」こと。介護する側が疲れているときは心の余裕がなくなり、どうしても辛くあたりがちに。認知症の本人にも余裕の無さが伝わってしまい、より「行動・心理症状」が強く出てしまうという悪循環にはまってしまいます。介護する側がストレス溜め込みすぎないためにも、認知症の人が家族に対して出やすい3つの特性を知っておくといいと思います。
①自分に不利なことを認めようとしない……自分不都合なことに対し平然と嘘をついたり言い逃れをしたりするのは、自己を守るため。事実を認めさせようと認知症の人の言葉を正したり押し問答をするよりは、本人が懸命に守ろうとしている自己を傷つけないように対応するのが良いと思います。
②特定の家族にだけ症状が出る……認知症は、正常な部分と認知症の症状が混在して出現します。特に初期の段階では外見上はまったく正常に見え、特定の家族にだけ症状が出ることも。まだらに症状が出ることは認知症の特性だと理解し、「どうして自分にだけ辛くあたるのか」と責めることは避けましょう。
③説得したり否定したりすればするほど、こだわり続ける……外出先からガラクタやゴミを拾ってきたり、タンスの中のものを部屋中に広げたりすることを、家族が説得したり否定したりすればするほどこだわり続ける傾向があります。こだわり続けることの奥にある本人の気持ちに思いをはせることが大切で、頭ごなしに制止することはやめましょう。
「こんなに一生懸命にやっているのに、なんで?」と思うよりも、本人の立場に寄り添って接すること、本人に良い感情を残すような「感謝の言葉=ありがとう」「共感の言葉=そうなんだね」を発することは、本人はもちろん、介護者である家族の気持ちも“楽”にしてくれることにつながるのではないでしょうか。
※参考文献:
・「認知症サポーター養成講座標準教材」「キャラバン・メイト養成テキスト」(全国キャラバン・メイト連絡協議会)
取材・文/藤井大輔
リクルート社のフリーマガジン『R25』元編集長。R25世代はもちろん、その他の世代からも爆発的な支持を受ける。2013年にリクルートを退職し、現在は地元富山で高齢者福祉事業を営みながら、地域包括支援センター所長を務め、住民向けに認知症サポーター講座を開催している。主な著書に『「R25」のつくりかた』(日本経済新聞出版社)
 
 


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