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2017.10.08

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親が認知症になったときに、あなたは周囲に「助けて」と言えますか?


「37.5歳のもしも……」を最初から読む
あまり考えたくはない未来の「もしも」が、人生には必ずある。夫婦のこと、子どものこと、両親のこと、会社のこと、健康のこと、お金のこと、防災のこと――心配しだすとキリがないけれども、見て見ぬフリをするには、僕たちもそう若くはない。今のうちから世の中の仕組み、とりわけ社会保障(セーフティネット)について知っておくことは、自分の大切な人たちを守るためにも“大人の義務教育”と言える。37.5歳から考える未来の「もしも」――この連載では「親の認知症」について全6回で考えていきたい。

日本人は自ら「助けて」とは言えないし、「助けて」と言われないと助けない

困ったときに、人を頼って助けを求める――この行為を当たり前のように感じる人は多いかもしれません。しかし、いざ自分の身に降りかかるってみると、周囲に「助けて」と言うことがいかに難しいかがわかるはずです。なぜなら「人に迷惑をかけたくない」「身内の困りごとを人に知られたくない」といった心理が働いてしまうからです。
逆に、助ける側の心理はどうでしょうか。長野県須坂市が実施したアンケートでは、「近所に困った人がいたら助けるか」という設問に対し、「頼まれなくても助ける」が23%、「頼まれれば助ける」が72%、「助けない」が5%との結果になりました。困ったことがあれば助けたいと思っている人が実に95%いるのは頼もしいのですが、約7割は「頼まれれば」の条件付きになっている。なぜなら「勝手なことをするとかえって迷惑だから」「人の家庭に首を突っ込むのは失礼だから」という理由が多い。つまり「助けて」の声を上げなければ、7割の人は助けてくれない、ということです。
困っている側が「助けて」となかなか言えない心理と、助ける側が「頼まれれば」と条件付きになる心理。このすれ違いが、日本で助け合いがなかなか進まない根本要因だと指摘する専門家もいます。 このことは「認知症高齢者」の場合でも顕著で、本人や家族がなかなか周囲に言い出せず、ようやく発見され支援の手が届いたころには重度化していた、といったケースがよくあります。認知症は発見が初期であれば、著しい改善が期待できたり、軽度の支援で日常生活が維持できるとも言われているのですが、「家族が認知症であることを知られたくない」「恥をさらしたくない」との心理が働いてしまうため、初期段階での発見が難しくなってしまう傾向があるのです。

「自分だけじゃないんだ」と思えるだけで、勇気が湧いてくる

認知症は告知された本人はもちろん、配偶者や家族もやるせなく、悲しく、辛いもの。だからこそ、決して抱え込むのではなく、同じ境遇の家族同士集まって共有することが大切だとされています。最近では認知症の人やその家族が、地域の人や専門家と相互に情報を共有し、お互いを理解し合う場である「認知症カフェ(オレンジカフェ)」が増えてきています。厚労省が2015年に作成した「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」では、2018年(平成30年度)までに「すべての市町村に配置される認知症地域支援推進員等の企画により地域の実情に応じ実施」となっています。
1980年に結成された「認知症の人と家族の会」の前代表理事・高見国生さんは雑誌の取材で、「私自身がそうだったように、『自分だけではないんだ』『自分より大変な人もいるんだ』と思えるだけで、勇気が湧いてきます。家に帰れば認知症の人がいる。事態は何も変わってないかもしれない。でも、『もう少し頑張ろうかな』と思えたら、それだけでよいんです。それが一番の値打ちじゃないか。私は三十七年間こういい続けてきました」(※引用)と語っています。
親が認知症になったときに、周囲に助けを求めることは、決して恥ずかしいことではありません。むしろ自分の体験を共有することで、あなた自身はもちろん、他に苦しんでいる人に勇気を与えることになるのです。
親の介護に向き合うときには、決してひとりで抱え込まないこと。そのために、「助けて」と言える勇気、「自ら弱みをさらけ出せる」という強みを持てるかどうか。いま親の介護に関わっている人も、そうでない人も、ぜひ心に留めておいていただければと思います。
次回は「認知症に対する誤解・偏見」をテーマにしたいと思います。
※参考文献: 認知症サポーター養成講座標準教材(全国キャラバン・メイト連絡協議会)
※引用: 文藝春秋2017年8月号「本人も家族も幸せになる介護」
取材・文/藤井大輔
リクルート社のフリーマガジン『R25』元編集長。R25世代はもちろん、その他の世代からも爆発的な支持を受ける。2013年にリクルートを退職し、現在は地元富山で高齢者福祉事業を営みながら、地域包括支援センター所長を務め、住民向けに認知症サポーター講座を開催している。主な著書に『「R25」のつくりかた』(日本経済新聞出版社)
 
 


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