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2017.09.02

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東京オリンピック後の“マンション価格暴落説”は本当か?

不動産の噂の真相 Vol.1
オーシャンズ世代にとって“避けては通れない未来”のひとつに、「住まいをどうするのか」というテーマがある。結婚し、子どもが生まれ、やがて巣立っていく――そんな人生の物語をつむぐ舞台=住まいについて、実は私たちはそこまで深い知識を持っていない。なんとなく周りの意見やメディアの見出しやウワサ話に踊らされてはいないだろうか。この連載では、元SUUMO新築マンション編集長が、世の中に出回っている“不動産のウワサ”について徹底検証。信じるも信じないも、あなた次第です。

都心のマンション価格が上がり続けているのは、オリンピック効果なのか

ここ数年、東京都心部を中心にマンションの価格が上がっていると感じている人は多いだろう。不動産経済研究所のデータを見ると、首都圏の平均価格は2013年から上昇を始め2016年には前年より若干下がったが、それは1住戸あたりの面積が狭くなったから。1㎡あたり平均価格は相変わらず上昇を続けており、いまだ価格上昇は収まったとは言えない状況にある。
2013年から価格上昇が鮮明になったきっかけのひとつが、東京オリンピックの開催が決定したことだ。それまで2011年に発生した東日本大震災の影響で、液状化リスクが顕在化した湾岸エリアなどを中心に売れ行きが鈍化し、価格もこの10年では低水準だった。ところが、2013年9月に東京五輪開催が決定すると風向きがガラリと変わる。五輪に向けて都内を中心に開発が進む人々の期待感が、地震への不安を上回ったわけだ。
また五輪開催決定以前から震災復興に起因する建設業の人手不足による建築費上昇は始まっていて、全般的な価格上昇の要因と説明されてきた。ただ、実は建設業の人手不足は震災から2~3年後には収束していて、今も続く価格上昇の主因は、すでに「人手不足による建築費上昇」ではなくなっている。
では、なぜマンション価格は上昇し続けているのか。その要因を探るために、少し時代を振り返ってみよう。1990年代後半から2000年代前半にかけて、首都圏の新築マンションは年間8万戸以上という大量供給が続いた。当時は、場所はどこであれ「建てればいずれ完売する」との考えで、供給を増やすことを追求するデベロッパーが少なくなかったのだ。
しかし、その後、リーマンショックや東日本大震災という厳しい出来事が不動産業界を直撃する。一部のデベロッパーは淘汰され、生き残った会社はより堅実な経営方針へと転換が進んだ。数を追わず、一定の需要が計算できる好立地に絞って用地を仕込み、商品力を背景に強気の価格設定で手堅く利益を上げる会社の割合が増えたのだ。その結果、現在の首都圏の新築マンション供給戸数は年間3万戸台と、大量供給時代の半分以下にまで減っている。
販売戸数が減ると、需給関係が引き締まって価格は下がりにくくなる。また「高くても売れる」商品力強化が進んでいることも、価格が下がらない理由のひとつと言っていい。

ファクトに基づいて検証。オリンピック後に価格が暴落するシナリオの是非

この数年のマンション価格高騰で湧いてきたのが、東京オリンピック後の価格暴落説だ。東京の人口が2025年から減少に転じるとか、オリンピック関連施設の建設需要がなくなり建築費が下がるとか、アベノミクス初期の円安で東京の不動産を買った外国人が値上がり益狙いで一斉に売りに回るとか、それらしい理由がさまざまなメディアで語られている。
しかし、ここは冷静にファクト(事実)に基づいて考えてみる必要がある。東京都の人口はたしかに2025年にピークアウトする予測だが、2035年に至ってもすでに価格上昇が始まっていた2015年より人口の絶対数は多いという予測になっている。その先も減り方は極めてマイルドで、少なくとも価格が暴落するほどマンションの買い手が激減するレベルではないことは都の公表データを見れば一目瞭然だ。
オリンピック関連施設の建設需要は日銀調査統計局資料によれば、施設や道路などオリンピックに直結する費用は3兆円程度。それを開催決定の2013年から数年かけて費消するわけで、年間数千億円規模となる。一方、官民合わせた国内建設需要は毎年50兆円規模で推移していることを踏まえると、実は五輪関連の建設需要は国内全体の1%程度にすぎず、それがなくなっても建築費相場がガタ落ちするような事態は考えにくい。
外国人の話も、彼らが「一斉に」売りに回ったら、という極端な仮定でしかない。実際、東京の不動産は世界の主要都市と比べて値上がり率が低いほうで、外国人が短期の値上がり益を狙うならば、東京よりも値上がり期待値が大きい都市を選んだほうが合理的なのだ。世界諸都市と比較した東京の不動産の特徴は、賃料の利回りがよい点にある。外国人が東京の不動産を選ぶのは、売却益より賃料収益を得るためという人が多数派と考えるほうが自然だろう。
加えて、不動産業界が多少高くても売れる商品をつくり売れる数だけ販売するという、商品力と需給バランスを重視するようになっているのだ。こうした数字の事実や業界の背景をふまえると、危ういのはマンション価格というより、価格暴落説を安易に信じてしまうことだと思えるのだが、いかがだろうか。
第2回は「住宅ローン金利のウワサ」について、書いてみたい。
取材・文/山下伸介
1990年、株式会社リクルート入社。2005年より週刊誌「SUUMO新築マンション」の編集長を10年半務め、のべ2700冊の発刊に携わる。㈶住宅金融普及協会の住宅ローンアドバイザー運営委員も務めた(2005年~2014年)。2016年に独立し、住宅関連テーマの編集企画や執筆、セミナー講師などで活動中。
 


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