日本生活習慣病予防協会によると、「慢性的な不眠」に悩まされているのは日本人の5人に1人。読者のなかにも「最近寝つきが悪くなった」「早朝に目が覚めてしまう」など、“睡眠”にまつわる悩みを抱えている人がいることでしょう。果たして睡眠の質を高めることはできるのでしょうか? さまざまな角度で検証していきます!
「たのしい睡眠」を最初から読む良質な睡眠のためには、規則正しい生活を――。もっともな意見ではありますが、正直なところ、何から手を付けていいかわからない……。日夜忙しく働いているなら、特にそう思っている人も多いでしょう。そこで、睡眠の質を高めるために、今晩から実践できる具体的なテクニックを、新橋スリープ・メンタルクリニック院長の佐藤 幹先生に教えてもらいました。
1.眠る時間ではなく、起きる時間を一定にする
「人が眠くなる時間は、朝起きて太陽の光を目に入れてから、15~16時間後にセットされます。つまり、起きる時間によって眠くなる時間が決まるということ。毎日一定の時間に起きることで、夜の決まった時刻に眠気を感じやすくなります。『今日は眠れないな……』という日は焦らずに、30分~1時間くらい寝る時間を遅くしましょう。就寝時刻を遅くすることで、眠らなくてはという心理的緊張が少なくなり、生理的に眠りやすくなることが知られています」
2.お風呂は2時間前、運動と食事は4時間前までに終わらせる
「就寝直前に体温を上げると寝付きが悪くなるため、入浴は布団に入る2時間前には済ませるといいでしょう。湯船に浸からずシャワーだけの場合も、就寝直前の時間帯は避けましょう。運動によって上昇した体温は下がりにくいため、夜にジョギングをされる方は、就寝4時間前には終わらせるといいでしょう。また、睡眠時に胃腸が動いていると睡眠の妨げになってしまうので、しっかりとした食事は就寝4時間前までに済ませると理想的ですね」
ちなみに、寝る前に体を動かしたい人には軽めのヨガやストレッチがおすすめ。逆に腕立て伏せなどの筋トレは、体の内部の温度である「深部体温」が上がってしまうので、避けたほうが良いそうです。
3.クーラーはつけっぱなしでOK
「暑くて眠れない日は、寝ている間にクーラーをつけていても構いません。その場合、温度は27~28度くらいに設定するのがいいかと思います。つけっぱなしだと体温が下がり過ぎてちょっと……という方はタイマーを使いましょう。寝付いてから1、2時間後くらいに切れる設定にし、起床時間の1時間半前くらいにONタイマーをセットすれば、太陽が昇っても、気温が睡眠を妨げることが少なくなります」
4.安眠のためには“真っ暗”よりも“程よい明るさ”を
「実は、寝る時に部屋を真っ暗にすると眠りにくくなるんです。むしろ“月明かり”くらいの明るさの方が眠りやすいといわれています。もちろん、スマホやテレビなどの“青白い光”は覚醒を促してしまうため避けるべきですが、部屋の明るさは目に光が直接当たらず、周りのものの形がぼんやり見えるぐらいが良いでしょう」
5.旅先や出張先で眠れない時は、読み慣れた本を持参する
「出張などで慣れない場所に行くと、緊張してなかなか寝付けないことがあるかもしれません。その場合は、普段から読み慣れた本や聴き慣れた音楽など、リラックスできるものを持って行くと良いかもしれません。また、推理小説や激しい音楽は逆に脳を興奮させてしまいますので、ストーリーがわかっているお気に入りの漫画や雑誌など、あくまでも“儀式的”に眺めたり聞けたりするものにしましょう」
質の良い睡眠のためには、特別な寝具を用意するのではなく、起床や食事の時間など、日常生活の“タイミング”の見直しが重要なポイントになりそうです。
なお、厚生労働省では
「健康づくりのための睡眠指針」として、12の項目を挙げています。眠れないとお悩みの方は、上記の項目と併せて、自分の生活習慣と照らし合わせてみるのがよいかもしれません。
文/周東淑子(やじろべえ)
取材協力/新橋スリープ・メンタルクリニック 佐藤 幹先生
東京慈恵会医科大学卒業後、同大学精神医学講座入局。2003~2010年、同大学付属病院本院精神科外来勤務。睡眠障害を中心に精神科領域全般における診療を行なう。睡眠学を専門とし、睡眠時無呼吸症候群、ナルコレプシー、時差ぼけ、不眠症などの研究を行う。特に不眠症に関しては認知行動療法を取り入れた治療法を研究している。2010年、新橋スリープ・メンタルクリニックを開設。日本睡眠学会認定医。