知らなきゃ男が廃るが、知ってりゃ上がる。気にするべきは、顔のシワより脳のシワ。知的好奇心をあらゆる方向から刺激する、カルチャークロスインタビュー。
【都築響一】
独自の切り口で人間の“業”をえぐり出す辣腕編集者、都築響一。彼が自身のメルマガで連載している人気企画をまとめた書籍『捨てられないTシャツ』が話題を呼んでいる。
老若男女70人が自身の“捨てられないTシャツ”にまつわるエピソードを寄稿。想い出話から浮かび上がってくる、それぞれのライフストーリーが実に味わい深い1冊だ。
しかし、なぜTシャツ?
「Tシャツって、年齢、国籍、貧乏、金持ち問わず、誰でも着る服でしょ? 高級時計やテーラードスーツと違って、どんな人にも語ることがあるというのがいい。単なるファッションアイテムではなく、着てること、持ってること自体が“メッセージ”になりうるんですね」
一部の著名人をのぞき、大半の寄稿者がいわゆる“素人”。都築自身も「正直に言ってここまで多様な面白い話が出てくると思わなかった」と、感慨深げに語る。
「これは僕自身が驚いたことですけどTシャツの話ってハズレがないんですね。なかには『捨てられないTシャツなんか持ってないです。着ないのに持っててもしょうがないでしょ』っていう人がいるんです。要するに、着ない物を後生大事に持っているような人には大抵なんかあるってことですよ(笑)」
確かに“捨てられない”という気持ちを持つ人たちの姿は、どこか不器用に感じるけれど、とても愛しくもある。
「近年、断捨離がブームになって、みんないろんな物を捨てようとしてますよね。捨てることを知的な行為として良しとする風潮があるけれど、物を捨てられるということは、捨てられる想い出しか持ってない人だってことですからね。そういう想い出を持ってる人と持ってない人と、人間的に豊かなのはどっちだろう、ってことです」
それは常に市井の人たちの面白さ、過激さに魅せられ、それを伝えてきた都築ならではの言葉と言える。
「世間では、有名人とかクリエイティブな職業に就いている人って普通の人たちより面白い生活をしてるようなイメージがありますよね。でも普通の人のほうがどれだけ豊かな日常を送り得る可能性があるのかってことがわかれば、世の中の見え方は違ってくるかもしれないじゃないですか。それが文学ってものだと思うんですよね。そういう意味で、Tシャツはひとつの突破口の役割を果たしてくれました」
そして、こう締めた。
「Tシャツって、できたときはまだ完成品じゃないんですよ。誰かが買って、それを持ち主が着ていくことで完成する物なんだろうね」
『捨てられないTシャツ』
都築響一/筑摩書房/2000円
たかがTシャツと言うなかれ。有名無名の70人が捨てられずにいたTシャツには、笑いあり、涙あり、共感ありのエピソードが込められていた。Tシャツの持ち主自身が書いたテキストもリアリティに溢れ、文章力の高いものばかり。見事なノンフィクションの誕生である。
柏田テツヲ(KiKi inc.)=写真 美馬亜貴子=取材・文