店員の人に愚痴っていたり、ずっとスマホをいじっていたり、さびしいと思われるのが心配だったり……。いやいや、男のひとり飯ってもっと自由で格好いいもんなんです! そこで目指すべきは“グルメ・ヒトリスト”。すなわち自由に食を謳歌する一匹狼です。女性が思わず惚れるような“グルメ・ヒトリスト”を目指すべく、ひとり外食の楽しみ方や振る舞い方を、達人に教えてもらいましょう!「ひとりで店には入れない」なんて後ろ向き。イメージが180度変わる、ひとり飯のすごい世界とは⁉︎
「ゼロから学ぶオッサンひとり飯」を最初から読む格好よく、ひとり飯ができるオッサン「グルメ・ヒトリスト」を目指して続けてきたこの連載も、今回で最終回です! いかがでしょう、ひとり飯に慣れてきましたか?
最終回はぐんとハードルを上げて……憧れの「敷居の高い高級店で、ひとり飯を楽しむ」方法をテーマにします。私には、いつかひとりで星付きフレンチに行き、心おきなくノンビリとディナーを楽しみたいという夢があります。誰かと行くフレンチも楽しいですが、静かにひとりで最高級の料理に舌鼓を打つ時間も、素敵だろうなと思うんです。
でも、ランチには気軽に行けても、ディナータイムは複数人でいらしているお客様ばかり。エスコートなしでフレンチに出向き、ひとりディナー……さすがに抵抗があって、まだ実現できていません(笑)。
本連載のアドバイザー・本郷義浩さんとお話したところ、「男性にとっては、フレンチよりも、高級寿司や料亭、割烹にひとりで入るのが憧れ」とのご指摘あり! さっそく、ひとりで敷居の高い店に入るアドバイスをいただきましょう。
本郷:お金がなかった学生時代、父の知人が都内の高級寿司店に連れて行ってくれました。目の前で握ってもらう体験は初めてで、いただいたお寿司もおいしくて、「こんな世界もあるのか。いつか自分で自腹で来られるようになろう」と思ったんです。それで、30歳を過ぎたある日、突然「銀座の寿司店にひとりで行ってみよう」と思い立ちました。
富永:高級店のなかでも、お寿司はハードルが高いですよね。まず、ご主人が怖かったらどうしようとか、静かなカウンター席で何を話せばいいんだろうか、余計な心配をしてしまいます。あと、いくらかかるか、会計時までわからない怖さもありますよね。
本郷:僕はお寿司屋さんの大将からは「教えを乞う」というスタンスを貫いています。寿司店における立ち居振る舞いはもちろん、食べるときのマナーや店での会話の仕方まで、経験豊富な彼らから作法を教えていただくことは、とくに30~40代のビジネスパーソンにとって必要なことだと思います。
富永:そうですよね。格好つけずに「どうすればいいかわからないので、教えてください」とお願いすれば、大抵は丁寧に「こういうときは、こうするといいですよ」と、教えてくださいますよね。敷居の高い店で、いきなりスマートに振る舞うなんて無理! 慣れているふりをして気取って失敗するより、正直にぶつかっていったほうが、学びが多そうです。
本郷:「萎縮しないこと」「知ったかぶりをしないこと」「専門用語を使わないこと」の3つを、自分のなかでルールにしています。あと細かいところでは、初訪問の店では端に座ります。真ん中は常連さんが座ることが多いので、誘導されない限りは端の席へ。代金は、普通に飲んで食べるなら3万~4万が平均ですが、不安なら5万円ほど持っていけば大丈夫だと思います。
富永:どれくらい「ひとり寿司」を経験すると、慣れてきますか?
本郷:どんな場所でも、1時間もいれば場慣れしてくるもの。入店時に不安なのは当たり前です。それを5回も経験すると、度胸がついたなと感じられますよ。ひとりで乗り込んで、気持ちが折れずに帰れたことは自信になるので、そのあとはどんな店にも入りやすくなります。
富永:本郷さんにとって「敷居の高い店で、ひとり飯をする」という経験には、どんな意味があるのでしょう?
本郷:僕の場合は、銀座でひとりで寿司を食べる経験が、自分の弱いところ、とくに対人消極性の傾向を克服するきっかけとなりました。もともと僕は引っ込み思案で、初対面の人とは会話が続かず、そもそも愛想もなかった。でも、ひとり飯で度胸をつけたことで、弱点を克服でき、バージョンアップすることができたんです。
富永:たしかに、度胸がつくと世界は一気に広がりますよね。今まで「誰か誘ってみて、見つかったら行けばいいか」と思っていた場所にも、ひとりでどんどん出かけられるようになる。楽しみが増えて、日々が充実します。
本郷:積極的になれますよね。あとは「高級店」に出向くことで、「本物」に触れる機会も得られると思うんですよ。僕はいつかひとりで京都の料亭にも行きたいと思っていますが、これは相当ハードルが高い(笑)。それでもトライしたい理由は、料亭では最高級の懐石料理をいただきながら、その場にある掛け軸、花、花器、箸や器、お椀、酒器、そしてサービスも含めた「本物」の価値、つまりその店の「和の美意識」に浸れるから。それに触れるうち、自分自身の美意識も磨かれていきます。これもまた、自分のバージョンアップにつながると思うんです。
富永:「なんでわざわざ、敷居の高い店にひとりで行かなきゃいけないの? 緊張するし、面倒だよ」なんて思いがちですが、あえて勇気を出してトライすることで、いっそう格好いい自分に成長できるんですね! 最後まで、たくさんのアドバイスをありがとうございました!
最後に、本郷さんが「銀座でひとり寿司」をした経験のなかでも、入店前にいちばん緊張したというお店を教えていただきました。銀座にある「小笹寿し」です!
「強面のご主人と聞いていたので、入店前はかなり緊張しましたが、勇気を出してお伺いしました。扉を開けて、店の人の案内に従ってカウンター席へ。ビールを頼んで『お酒のアテからお願いします』と声をかけ、そのあと冷酒へ。出していただいたものは、とにかく真摯な気持ちで、真剣に食べます。そうすると、その真剣さが伝わり、大将は少し空気をゆるめて『どちらからですか?』など、話しかけてくださるものです」
「ほろ酔いになって、どんどん食べているうちに、一瞬『店の空気になじんだ』という感覚を味わえるタイミングがあります。アウェイから、ホームへ切り替わる瞬間。この感覚を覚えたことで、料理とお酒に向かう『おいしい』という気持ちとは、言葉ではなく体で伝えることから始まるのだと、気づくようになりました」
言葉で「おいしい」「最高です」と伝えることも大切。でもそれ以上に、その味わいを体でまるごと受けとめ、おいしさに身を震わせることで伝わる「食を愛している気持ち」というのはあると、私も思います。会話の少ないひとり飯だからこそ、実感できる感覚かもしれません。
これまで12回にわたり、ひとり飯を通して得られる発見や喜びについて書いてまいりました。心地よさそうに、ひとりで大好きなものを食べている「グルメ・ヒトリスト」な男性は、やっぱり格好いいなと思います。あなたにとって、人生をより豊かにしてくれるサードプレイスとなるお店が、たくさん見つかりますように。
「小笹寿し」問:03-3289-2227
住:東京都中央区銀座8-6-18 第5秀和ビル1F
営:昼12:00~14:00、夜17:30~22:00
休:日曜、祝日
取材・文/富永明子
フリーライター。レシピ本の企画・編集、グルメ記事の執筆など、食に関する仕事のほか、美容やヘルスケア、ダイエットに関する書籍・記事も多数。趣味はクラシックバレエ。
取材協力/本郷義浩
毎日放送プロデューサー。1964年、京都生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、88年毎日放送に入社。「真実の料理人シリーズ」「ラーメン覇王」「ビビビのB級グルメ覇王」「あまからアベニュー」「水野真紀の魔法のレストランR」など、多くのグルメ番組に携わる。番組関連で取材した飲食店はのべ1万軒、プライベートでの食べ歩きも1万軒以上。近年は、世界でただひとりの麻婆豆腐研究家を名乗り「麻婆十字団」を結成。著書に『うまい店の選び方 魔法のルール39』(KADOKAWA)、『自分をバージョンアップする 外食の教科書』(CCCメディアハウス)がある。
『自分をバージョンアップする 外食の教科書』
本郷義浩(CCCメディアハウス)
「外食」を通して世界を広げることが、仕事もプライベートも今より充実させ、自分をバージョンアップさせる! 本郷さん自身の経験をもとに「冒険的外食術」「リーダーとしての外食術」「モテる外食術」など、具体的な外食の方法を解説した一冊。