店員の人に愚痴っていたり、ずっとスマホをいじっていたり、さびしいと思われるのが心配だったり……。いやいや、男のひとり飯ってもっと自由で格好いいもんなんです! そこで目指すべきは“グルメ・ヒトリスト”。すなわち自由に食を謳歌する一匹狼です。女性が思わず惚れるような“グルメ・ヒトリスト”を目指すべく、ひとり外食の楽しみ方や振る舞い方を、達人に教えてもらいましょう!「ひとりで店には入れない」なんて後ろ向き。イメージが180度変わる、ひとり飯のすごい世界とは⁉︎
「ゼロから学ぶオッサンひとり飯」を最初から読む普段、男性がひとり飯をしている姿を見ると、大抵は「ひとりの世界を楽しんでいて、格好いいなぁ」と思います。ひとりでお店に入り、好きな料理と飲み物を頼み、本を読んだり、仕事をしたり、お店の人と笑いあったり……人目なんて気にせず、くつろいでいる姿からは“ザ・大人の余裕”が感じられて、素敵だなと思うんです。
が……たまに、女心(のみならず、店内のテンションも)冷ます言動も。それは「愚痴」! 居合わせるとしんどいのが、ず~~~~~~っとお店の人に愚痴っているひとり客。私も頻繁にひとり飯をしているので、うっかり隣に座ってしまったら、こちらに飛び火することも。
「いや~、板挟み状態っていうの? 俺にばっかり押しつけてきて、勘弁してほしいんだよね。自分で取ってきた仕事は、クレームだって自分で対応しろよって思いません?」 「いつも仕上げた後から文句つけてきてさぁ……前回、社内で賞もらってるんですよ! そこ評価しろよって思うんだけど……上司が気分で入れた修正ばっかり、してる場合じゃないんだよね」 「部下の女の子が、やれ体調が悪い、やれあの人は苦手だって、文句ばっかり言ってて、なに考えてるのかサッパリわからないんだよなぁ」
酔っているせいもあり、時間を追うごとに愚痴はヒートアップ。だんだん、ほかのお客さんも避けはじめ……本人としては、家でも職場でも話しにくい辛い気持ちを誰かに聞いてもらいたいだけなのでしょうが、言えば言うほど周囲は引いてしまい、寂しさが募ってしまいそう。う~ん。
富永:こういう男性客を、外食の達人である本郷さんはどう見ます?
本郷:男のひとり飯には「女性」が必要なことって、あるんですよ。
富永:えっ、ひとり飯なのに相手が必要なんですか? ひとりで静かに考えるのではダメなんでしょうか?
本郷:仕事で抱えたストレスや悩みって、男同士だと話しにくいことが多い。かといって、家で彼女や妻に愚痴るのも恥ずかしい場合もある。そんなとき、ひとりで飲みに行った先にいる女性相手だからこそ、「ちょっと聞いてよ」と言いやすい話ってあるんですよ。
富永:ひとり飯に行ったお店でも、お店の人が男性だとプライドがあるから、愚痴れない……というのは、なんとなく想像がつきます。
本郷:僕自身は愚痴が好きではないのですが、男にはちょっとした愚痴とか自慢とか、女性に受けとめてほしいときがあると思います。そんなときは、女性、とくに「お母さん!」と声をかけたくなるような、温かみのある年上の女性が切り盛りしているお店に出向くといいですよ。
富永:若い美女ではなく、あえて「お母さん」がいいのはなぜ?
本郷:長いこと、飲食店を運営されてきた女性はとくに、男の愚痴や自慢を適度に受けとめる能力が高いんです。小料理屋の女将さんとか、スナックのママさんとか、男性ひとり客を相手してきた経験値が高い女性は、頭のいい人が多い。男の「いかに俺がすごくて、面白いか」なんていう自慢語りだって、さらりと受けとめてくれます。関西だと「そんなん言うてるの、あんただけやで」って、ツッコミを入れてくれる上級者も多いですけどね(笑)。
富永:あと、女性関係のお悩みを相談するときも、経験豊富な「お母さん」であれば、有意義なアドバイスももらえそうです!
本郷:女性のことは、女性に聞きに行くのが一番ですね。職場で一緒に働いている女性の心理がわからないときも、妻や彼女の気持ちがわからないときも、あえて気心の知れた「お母さん」に聞きに行くといいですね。
富永:“気心の知れた”というのは大きなポイントかも。そういう「お母さん」のいるお店は、やっぱりひとりで通いたいですよね。ひとり飯で通ってきたお店だからこそ、自分の性格もある程度わかってもらえて、お店の女性にも相談しやすくなる。
本郷:僕はそういう女性を「疑似お母さん」と呼んでいます。とくに親元を離れていたり、単身赴任をしていたりと、一緒にいるだけでホッとできる女性が近くにいない人は、「疑似お母さん」がいるお店を探すことをオススメします。
富永:ちょっと寂しくなったり、不安になったり、ストレスが溜まったりしたとき……そんな気持ちを適度に受けとめてくれる「疑似お母さん」がいるだけで、癒されそうですね。
本郷:イメージは、刑事ドラマで刑事たちが立ち寄る小料理屋(笑)。ちょっとふくよかな和服の女将さんがお酒を運びつつ、話すシーンがよく出てきますよね。あのくらい小規模で、どこか懐かしい雰囲気の小料理屋、ぜひ探してみてください。
相談事も愚痴も自慢も、いくら「疑似お母さん」が受けとめてくれるとはいえ、相手を困らせるほどやりすぎるのはもちろんNG! とはいえ、格好いい「グルメ・ヒトリスト」にだって、眠れない夜はあるもの。そんなとき、頼れる相手をわかっている男性は、どんなに悩んでいる姿を見せたっていいと思います。
さて、今回本郷さんに紹介してもらうお店は、本郷さんにとっての「疑似お母さん」がいる、とっておきのお店! 大阪の新梅田食道街にある「森清」さんです。
80歳を超えるいつも元気で笑顔の森岡清子さんがカウンターに立ち、息子さんが料理を作っているお店だそうです。
「僕がはじめて行ったのは、数年前の2月中旬。なぜ覚えているかというと、森岡さんが帰り道に『バレンタインデー近いし、どうぞ。来てくださってありがとうございます』と言って、板チョコを渡してくれたから。思わず心がなごみました」と本郷さん。
東京から大阪へ出張に出た際に、帰りがけに一杯飲んでいくビジネスマンも多いそう! それはまさに「疑似お母さん」である森岡さんに会うためでしょう。
本郷さんはいつも、ポテサラで冷酒を飲みながら、森岡さんの笑顔と大阪弁のトークを聞いているそうです。
「森岡さんにお会いして、80歳を超えてもなおお元気な姿を見ていると、人生が楽しく見えてきます。『生きることは楽しい』、そう改めて感じられるんです」と本郷さんは語ります。会うたびに、そんな元気をくださる「疑似お母さん」……なんて素敵!
ちょっとお疲れ気味の皆さん。今夜、あなたの「疑似お母さん」を探しに、ひとり飯できる新しいお店の暖簾をくぐってみませんか?
「森清(もりせい)」問:06-6312-0480
住:大阪府大阪市北区角田町9-26 新梅田食道街 2F
営:17:30~23:00
休:日曜、祝日
※全面禁煙
shinume.com取材・文/富永明子
フリーライター。レシピ本の企画・編集、グルメ記事の執筆など、食に関する仕事のほか、美容やヘルスケア、ダイエットに関する書籍・記事も多数。趣味はクラシックバレエ。
取材協力/本郷義浩
毎日放送プロデューサー。1964年、京都生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、88年毎日放送に入社。「真実の料理人シリーズ」「ラーメン覇王」「ビビビのB級グルメ覇王」「あまからアベニュー」「水野真紀の魔法のレストランR」など、多くのグルメ番組に携わる。番組関連で取材した飲食店はのべ1万軒、プライベートでの食べ歩きも1万軒以上。近年は、世界でただひとりの麻婆豆腐研究家を名乗り「麻婆十字団」を結成。著書に『うまい店の選び方 魔法のルール39』(KADOKAWA)、『自分をバージョンアップする 外食の教科書』(CCCメディアハウス)がある。
『自分をバージョンアップする 外食の教科書』
本郷義浩(CCCメディアハウス)
「外食」を通して世界を広げることが、仕事もプライベートも今より充実させ、自分をバージョンアップさせる! 本郷さん自身の経験をもとに「冒険的外食術」「リーダーとしての外食術」「モテる外食術」など、具体的な外食の方法を解説した一冊。