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2017.04.28

あそぶ

50代は手を縛って生きる。大沢伸一、モンド・グロッソ復活にかける想い

クリエイティブに年齢は関係ない。50歳になって円熟味を増した表現で周囲の期待に応えていくアーティストもいれば、いつくになっても新鮮さを損なわず、ファンの期待を裏切る作品を生み出していくアーティストもいる。今年50歳を迎えた大沢伸一は、どうやら後者のほうのようだ。
作品の変遷を見ると、その生き様を見るようであり、苦悩の歴史をたどるようでもある。50歳にして、自身初の「全曲日本語歌モノ」に挑戦する彼の想いを聞きながら、その生き様を紐解いてみたい。これから50歳に突き進むオーシャンズ読者にとっても、40代をどう生きるか、大いなるヒントになるはずだ。

過去を下敷きに作るより、今の思い付きを形にすること
「ヘンな言い方かもしれませんが、同じところをなぞるのがイヤなんですよ。特に年を重ねれば重ねるほど、自分の中に通ってきた筋道と現在の位置を見いだすかもしれませんが、僕はずっと新しい道しか行けない人間なんですよ」
6月7日発売のアルバム「何度でも新しく生まれる」に向き合う姿勢をたずねた、その返答だ。大沢伸一は、このアルバムで14年ぶりにモンド・グロッソを復活させる。アシッド・ジャズ全盛時代の1991年に京都で誕生し、日本の枠組みを飛び越えてクラブシーンを席巻した。だが過去は振り返らないし、積み上げてきたものに価値を見いだすことは一切ないという。活動時期を振り返れば、モンド・グロッソの歴史はそれまでの世間のこうであろうという期待を、作品を重ねるたびにことごとく裏切ってきたものでもあったのだから。
「いつ死ぬかわからないじゃないですか。そうすると過去を下敷きにして積み上げる作業って、一番やりたいことじゃないと思うんですね。先にやるべきは、今思い付いたたことを形にすることだと思うんですよ」
日本語のリリックにしたのも、「やったことがないから」という思い付きが発端だ。発売中の先行シングル『ラビリンス』では、今や女優としての印象が強い満島ひかりをボーカルに迎えてみたり、かつてプロデュースしたbirdとのセッションでは、その力強い歌声に刺激を受け、用意しようと考えていた楽曲を捨てた。
「音楽家にあるまじき発言かもしれませんが、今回の制作を通して、しばらく音楽を作ることを忘れていたんだと思い知らされました。自分が昔やっていたような温度感でやっているつもりが、できていなかったということがわかったんです」
思い描いていた50歳と、実際に到達した50
50歳にして初心に戻るなんて、ある意味すごい経験だ。四十にして惑わずという言葉があるように、それだけ年齢を重ねれば、もはや達観の域に差し掛かっているに違いないと考えてしまうのだから。

「若いときのほうがもっとロジカルでコンセプチュアルでした。誰かが使っているかもしれないこのコードとコードを組み合わせて……とか。でもそれって僕じゃないんですよね。誰か風の何かを作りたいという欲求に駆られて作っているだけで。本当にこれが素晴らしいと思っているのか、あるいは目標に近いものを作れる自分に感動しているのか、どっちなのかわからなかったんです。でもそこで、『できてるおれってすごい!』と勘違いできるのが若さという才能なんですよね」
さらに加えれば、若い頃に感じた達成感はノウハウや知見となり、見る目を養えたのだ。とはいえ経験値は積もり積もって、自分自身を苦しめることとなる。海外のさまざまな舞台でDJをプレイした経験を「楽しかった」と振り返る40代を経て、現在の心境。
「20代に想像した40代や50代って、もっとものごとがクリアに見えたり、落ち着いていたり、色んなことが達成できていると思っていたんです。もちろん物理的に達成できたことはありますが、実際には考えなきゃいけないことが増えたり、今まで思わなかったことを感じてしまったりするわけで。とてもじゃないけど若い頃に考えていた50歳の像とはまったく違いますよね。“アガリ”とはほど遠い」
手を縛ってゼロから作る。大沢伸一の仕事術
でも、それでいいと考えている。ゼロからものを作ることに価値を見いだしているのだから。キャリアを重ねることは、自分自身の“勝ちパターン”ができるということ。「こうしておけば、こういった結果になる」という予測の元に作ったクリエイションは、やはり自分や誰かの過去の焼き直しでしかない。
「そういうクリエイティブって、結局頭で何かを作っているとか言いながら、過去を探ってそのなかのべストを作っているだけじゃないですか。よく勘違いしたミュージシャンの『音が降りてきた……! ジャジャーン』みたいな(笑)。だから僕の場合、手を縛るんです。もちろんそれは比喩で、言い換えれば自分の手グセを封印するということ。たとえばギターから作るのをやめるとか、知っているコードを一切使わないとか。違うところに行くには、違うアプローチしかないんですよ。僕の音楽作りの最初の一手を見たら、この人は頭がおかしいと思うんじゃないですかね」
反面、そこには少なくない恐怖が伴う。勝ちパターンに乗らないということは、失敗するリスクを抱えるばかりか、そもそも何も出てこない……という可能性すらあるのだから。
「それは当たり前で、何の影響も得ていないのに何かが出てくる人はいない。でも無作為に始めたときに、何かに反応してできたものが、クリエイションだと思うんです。子供が友だちの家でおもちゃ箱をひっくり返して遊ぶように、いかにゼロに近い状況を自分に用意してあげられるかが大事なんですよね」
ゼロから混沌のプロセスを経てできたアルバムは、モンド・グロッソの集大成ではない。だが、やっぱり“らしさ”に溢れたものだ。予定調和を嫌って生まれた作品たちはまったく未知のものであって、その意味で期待を裏切っていないのだから。
「ふと、これで大丈夫なのかなと思ったりもするんですけどね(笑)。でも結局すべて僕が作っているわけで、クリエイションの責任は取らなきゃいけませんからね」
大沢伸一は、「記念」という言葉が嫌いだそうだ。だが50代の最初を飾る作品たちを聴く限り、ファイティングポーズを崩すつもりはなさそうだ。きっとこの先も過去のすべてを遠慮なく裏切り続け、新鮮な驚きを与え続けてくれるのだろう。

大沢伸一
1967年滋賀県生まれ。91年モンド・グロッソを結成。93年「MONDO GROSSO」でメジャーデビュー。UA、Chara、birdをプロデュースしたほか、近年では安室奈美恵、山下智久、JUJUなどに楽曲を提供。CMなどの楽曲制作に加え、DJとしても高い人気を誇る。モンド・グロッソ14年ぶりのリリースとなる、満島ひかりが歌うシングル『ラビリンス』(1800円)は4月22日にアナログ発売。4月28日にはデジタル版が配信開始。またINO hidefumi、birdらが参加する待望のニューアルバム『何度でも新しく生まれる』は6月7日発売。6月6日にデジタル版が配信開始。
『ラビリンス』をiTunesでチェック!

小島マサヒロ=撮影


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