駄菓子屋ゲーム界屈指の“魔物”。チビッ子をトリコにしたルーレットゲームたち
昭和50年代の子どもたちがスーパーの屋上、銭湯の脱衣場、そして駄菓子屋の店先などで熱中した、いわゆる「駄菓子屋ゲーム」の数々。ビデオゲームの登場により次第にその姿を消していった、懐かしの筐体が最近、静かなブームを呼んでいるという。オッサン世代がハマった「駄菓子屋ゲーム」と再会すべく、日本有数の展示数を誇る「駄菓子屋ゲーム博物館」(板橋区)に向かった。
「”あの頃”ホビー再入門」を最初から読むというわけで今回のテーマは、駄菓子屋ゲームの中でも人気が高い「ルーレットゲーム」だ。写真はルーレットゲームの代表的存在だった『ピカデリーサーカス』(コナミ/現コナミアミューズメント)である。
賭けた数字に当たればメダルが払い戻されるという、カジノルーレットを簡略化した射幸心煽りまくりのプチ・ギャンブルゲーム。子ども時代、『ピカデリーサーカス』をはじめとするこの種のルーレットゲームに、お小遣いを吸い取られまくったオッサン、意外と多いのではないだろうか。ごく稀に、当たったメダルと駄菓子が交換できるお店もあったようだが、基本的にはいくら勝っても貯まるのは他に使い道のないメダルだけ。
それでも、あの独特の鈍い銀色に輝くメダルからは得も言われぬ“魔力”が放たれており、僕なんて夏休みにはパチンコファンよろしく駄菓子屋の開店を待って、これらのルーレットゲームに興じたものでした。なぜ「開店から」なのかといえば、当時の子どもたちの間で、こんな“噂”があったから。
「開店直後で、電源を入れたばかりのルーレットは出る!」
パチンコじゃないんだから! と失笑する向きもあろうが、実際のところ確かに朝イチでプレイすると、当たりが多かった記憶があるんですよねぇ。実は、このルーレットゲーム、そのほかにも幾つかの必勝法的な“噂”が流布されており、僕を含むルーレットゲームメイニアの子どもたちは、“噂”を信じて、せっせと10円玉を投入し続けたもの。はたして、あの“噂”の真偽はいかに? 今回お邪魔した「駄菓子屋ゲーム博物館」の館長である岸昭仁さんに聞いてみた。
「対角線のセオリー」の真偽は!? ルーレットゲームの都市伝説に迫る!!
「確かに当時『電源を入れた直後は必ず4が出る』みたいな都市伝説がありましたよね。でも、それらの大半は、文字通り“都市伝説”で、根拠のないものなんです」(岸さん)
すると朝イチで駄菓子屋の前に並んだ僕の苦労はいったいなんだったのか? ここで引きさがっては当時の自分が気の毒すぎるので、なおも食い下がってみよう。
「止まった位置の対角線上の数字に賭けると高確率で当たるという説もありましたよね?」(僕)
「完全なる都市伝説ですね。だって対角線上の数字にばかり止まるなら、2つの目しか必要なくなるじゃないですか(笑)」(岸さん)
「『2』、『4』、『6』、『8』みたいに4点以上の賭け方をするときに限って『0』が出るって負けパターン、実感として強い記憶に残っているんですが…」(僕)
「その傾向はあるかもしれないですね。ルーレットゲームはだいたい『2』、『4』、『6』、『8』、『10』、『30』とか6カ所に賭けることができて、それぞれ最大4枚まで倍率を上げられるから最大24枚張りまでできるんですけど、確かにそこまで賭けると結構な確率で『0』が出るような気がします」(岸さん)
いやぁ、「対角線」のセオリーが都市伝説だったとは…。これも当時マジメに実践して、結構当たりを引いていた気がするんだけどなぁ。
「ルーレットの目の出方は基本的にランダムと考えてよいと思いますよ。そこまで難しい制御はしていないはずですから。とはいえ先ほどの『0』が出るパターンのように、ちょっとした法則を感じる場合があるのも事実で、たとえば『30』が出やすくなるシチュエーションというのは、存在するんですよね」(岸さん)
なんと! それは耳寄りな話。
「ポイントとなるのは、筐体に貯まっているメダルの量です。筒状の容器があって、そこに払い出し用のメダルが貯蔵されるんですが、その筒に十分な量のメダルが入っていないと『30』が出ないようになっているみたいなんですよ」(岸さん)
岸さんによれば、遊び慣れてくるとメダルが貯蔵されている筒にどれくらいメダルが入っているか、メダル投入の際の音でわかるようになるという。わー、昔の僕に教えてあげることができたらなぁ(*_*)。
「とはいえ、この手のゲームって結局“勝ち逃げ”できないようになっているんですよね。一時的に大勝ちしても、長く遊んでいると最終的にはすべて吸い込まれてしまう。そういう設計になっているのは、駄菓子屋ゲームがあくまでも“遊び”目的で設計されているからだと思います。人間って面白いもので、あまり上手に出来過ぎると飽きちゃうじゃないですか。適度な難易度があるからこそ、いつまでも飽きずに遊ぶことができるわけで」
言われてみれば確かにその通り。『新幹線ゲーム』なんてまさに、難しさと面白さのバランスが絶妙だからこそ、名作として今も語り継がれているのだろう。ちなみに、今回挑戦した『ピカデリーサーカス』も、一時は30枚くらいまでメダルを獲得したものの、最終的には同数以上の10円玉を消費してしまいました、トホホ。とはいえ、なんやかんやで1時間以上遊べたんだから、大人にとっては格安のホビーといえるかもしれませんな。
30万円以上のレアものも! 駄菓子屋ゲームを個人所有することはできる?
今回紹介した『ピカデリーサーカス』をはじめ、約60台の駄菓子屋ゲームが展示されている「駄菓子屋ゲーム」博物館。
こんな感じで「博物館」というよりも、まさに駄菓子屋に近い館内に、ところ狭しと懐かしの駄菓子屋ゲームが並んでいる。
中には、こんな風に、なんというか「昭和」を感じさせる大らかなデザインを採用した筐体もあるのが駄菓子屋ゲームならではの魅力。展示されているものはすべて、館長の岸さんのコレクションとのこと。ちなみに今、当時の駄菓子屋ゲームを僕らのような素人が購入することはできるのだろうか?
「オークションサイトに、年に数回くらい出品されることはありますね。価格は本当にピンキリで、状態の良いレアものなら30万円近い値段が付くこともあります。最近だと安くても10万円くらいはするかもしれないですね。お金さえあれば購入するのは簡単ですが、メーカーが残っているわけではないので、修理を頼むことが難しく、自分でメンテナンスをしなければなりません。ある程度電気関係の知識がないと、維持するのは難しいのではないでしょうか」(岸さん)
やはり駄菓子屋ゲームは所有するものではなく、出かけていって遊ぶものということか。岸さんの著書『日本懐かし10円ゲーム大全』(辰巳出版)によれば、この「駄菓子屋ゲーム博物館」のほか、駄菓子屋ゲームで遊ぶことができる施設が各地にあるという。また、今もなお駄菓子屋ゲームを設置する駄菓子屋やスーパーは現存するとのこと。故郷を離れて数十年。大人になった今、住んでいる街のどこかで駄菓子屋ゲームが、あなたのことを待っているかもしれませんよ!
取材・文:石井“第2しんみせ”敏郎
取材協力:岸昭仁(駄菓子屋ゲーム博物館・館長)
●駄菓子屋ゲーム博物館
http://dgm.hmc6.net/