オッサンの醸し出す哀愁やチャーミングさに惹かれる若い女性は意外と多いという。しかし、女性ならではの「ツボ」を理解するのはけっこう難しい。そこで、映画に精通する女性ライターに、オッサン主演映画とその俳優の魅力を伺ってみた。所作や独特の雰囲気、生きざまなど、作品の役柄から見る「格好いい男性」とはいったいどんな人物像なのか。魅力を語ってもらった。
「OSSANs IN ACT」を最初から読む【今回の先輩オッサン】 豊川悦司(海江田醇)/『娚(おとこ)の一生』 豊川悦司の色気にうっとり♡ 昔も今も釘付けになってしまう実力派俳優 これまでの“先輩オッサン”は、ロバート・デ・ニーロやケビン・コスナーなどハリウッドスターをピックアップしてきたが、今回は日本の俳優・豊川悦司。現在、55歳の豊川さんの何がすごいかって、やはり色気! 彼が30代の頃のドラマ「愛していると言ってくれ」の画家役に惚れ込み毎週ドラマに釘付けだったし、その後もずっと追いかけている俳優だ。
女性を虜にするオッサンの魅力がここにある 豊川さんの美しい30代、脂の乗った40代の色気もステキだが、50代のロマンス・グレーの威力はもっとすごい。なかでも50代独身の大学教授・海江田醇を演じた『娚の一生』は、大人の男ってなんてステキなんだろうと、(自分の)恋愛対象の年齢層が一気にあがるほどの影響力だった。大人のラブロマンスなら『愛の流刑地』を挙げる人もいるかもしれないが、この人と愛に溺れたい……ではなく、この人と恋をしたいと思わせるオッサンの魅力を学ぶのであれば、断然『娚の一生』。この映画には、女性を虜にする“あるもの”が散りばめられている。
ひとりぼっちの女性との恋の始まりは心に響く言葉の数々 豊川さんの演じる海江田の魅力は真っ直ぐで心に響く言葉の数々だ。
都会で忙しく仕事をし、不毛な恋に疲れ、祖母の家に身を寄せていた堂薗つぐみ(榮倉奈々)だったが、祖母が急逝してしまったことでひとりぼっちになってしまう。
そんなときに現れたのが、祖母と親しい関係にあった海江田だった。生前に離れの鍵を受け取っていたこともあり、そのまま居ついて、不思議な同居生活が始まる。恋の始まりだ。
もう二度と恋はしない、と決めて田舎にやってきたつぐみだったが、海江田の自由な発言に心が揺れ動いていく。その海江田語録の一部を挙げてみると──
「練習のつもりで僕と恋愛してみなさい」
「過去には戻れへんのに、どうして目の前の僕を見いひんのや」
「僕は君を1人にはせえへんで」
「人を好きになるのはしんどい……」
「僕の胸で泣いてもええよ」
恋は盲目“恋なので、仕方ない”多くを語らないセリフに男らしさを感じる 極めつけは、周りの人たちに2人の関係、どうして一緒になりたいのかを聞かれたときの言葉──
「恋なので、仕方ありませんでした」 日本の男性はあまり愛情表現が得意ではないように見える。苦手な人が多いような気がするからこそ、海江田のセリフはより響いてくるのかもしれない。自分の感情をしっかり伝えてくれる、たとえばみそ汁が美味しければ「美味しい」と言うように、言葉にすることの大切さを教えてくれるキャラクターでもある。また、自分に自信をなくしてしまって「どうせ私なんて……」と自暴自棄になっているつぐみに対して、どうしてもっと自分を大切にしないのかと、ちゃんと怒ってくれるのも人生の先輩であるオッサン世代だからこそできることだ。
これが大人の男のエロス♡ 足キスだ! そして色っぽいを通り越してエロい! しかも美しい! この映画の公開時に話題になったのは、足キスと床ドン。当時、10代の恋愛映画が勢いを増していたが、10代には到底表現できない大人の色気が豊川さんにはあった。さすがに足キスはハードルが高いだろうけれど、気持ちを伝えることはすぐに活かせるはず。男性の「そんなこと言わなくてもわかっているだろ」は大間違い。わかっていても女は言葉で伝えてほしい生き物であって、海江田はそのツボを素晴らしく掴んでいる。オッサン世代にこそ、甘いセリフを発してほしい。
【information】『娚の一生』発売元:ポニーキャニオン/小学館
販売元:ポニーキャニオン
価格:DVD¥3,500(本体)+税、Blu-ray¥5,700(本体)+税
(C)2015 西炯子・小学館/「娚の一生」製作委員会
ライター
新谷里映
映画ライター、コラムニスト。女性誌「ESSE」、映画誌「J movie magazine」「CINEMA SQUARE」、ウェブ「cinemacafe.net」「NYLON JAPAN」「T-SITE」などでインタビュー、コラムなどを執筆。日テレ「PON!」の映画コーナーやラジオに出演するほか、映画のトークイベントのMCとしても活動中。
http://rierieshintani.tumblr.com/