3月、平日の昼間でも学生が目につく季節だ。
「街角OSSANコラム」を最初から読む大学は休みに入り、高校生も試験が終わり春休みを待つのみという、学生達が一番楽しい時期なのかもしれない。皆一様にテンションが高い。
コーヒーを飲みに立ち寄ったスターバックスの店内にも、学生らしき若者が多く、いつもより賑わっている。
コーヒーを買うための列に並びながら、スタバの店内を眺めていると、私の後ろに並ぶ男性が「アイドル」について話をしだした。
「AKBの誰々が……」「乃木坂は……」などなど、呪文のようにアイドルの名前が飛び出してくる。
どうやら、アイドルに詳しい人が、詳しくない人に説明をしているようだ。
「知らないアイドル増えたな〜」
ひとりの男性がそう嘆いていた。
その言葉にもうひとりが
「アイドル覚えられなくなったらオッサンですよ〜」
とつぶやく。
以前友人から同じことを聞いたことがある。
「子供の頃、アイドルの名前がわからなくなったらオッサンだと思っていた」
と……。
海外には日本のようなアイドルという文化が無く、あえて近いものを探すなら サッカー選手がそれに近い存在だったかもしれない。
子供の私はなんの努力も無く各チームのベンチ選手まで覚えていたが、 父親などはたびたび間違った名前で呼んでいたり、 新人の選手は全員「ルーキーくん」と呼び、
「覚えても、どうせすぐにいなくなる……」
と言って覚えようともしなかった。
確かにそれらに疎くなるのはオッサンの初期症状なのかもしれない。
当時、すごく共感したことを覚えている。
オッサンのレッテルを貼られた男性は、それを聞き名言調にこうささやいた。
「覚えられない私がオッサンなのか、それともアイドルが増えすぎたのか……」
確かにそうである。
私も日本に来て、そのことには驚いた記憶がある。
日本のアイドル文化は、海外でも有名で、日本に来る前からアイドルの存在は知っていた。 しかし日本に来るまで、こんなにたくさんのアイドルがいるとは思っていなかった。
調べてみると、国内外のAKB&坂道関係のグループだけで500人以上がいる。
(エケペディア参照)
それに、ハロプロやももクロ、ご当地アイドルに地下アイドルまで入れると、とんでもない人数になる。
人数もだが、年齢も下は6歳から上は90代までとかなり広い。
昔からこんなにいたのか? そうではなかった。
昭和と呼ばれた時代、アイドル黄金時代と呼ばれた80年代でもせいぜい100人程度である。(
http://nendai-ryuukou.com/article/006.html 参照)
それもほとんどがソロのアイドルで、大人数のグループとなると、AKBの先輩筋にあたる、おニャン子クラブくらいのものだった。
当時のオッサンは、その程度の人数でも覚えられなかったのだ。
だから「アイドルが言えなくなったらオッサン」という説が成り立った。
しかし今、この膨大な人数を誰が覚えられようか?
アイドルが言えないとオッサンという判断基準は、もはや過去のものである。
しかも、今のアイドルを応援し支えているのはそのオッサンたちでもあるのだ。
AKBやももクロなどのコンサートでは、40オーバーがほとんどである。
中には70代とおぼしき人までいる。
むしろアイドルの名前が言えるほうがオッサンということもあり得るのだ。
これは、小さい頃に「アイドルが言えなくなったらオッサンだ」と思いながら過ごした今のオッサン世代が、オッサンになりたくないと抗った結果、 知らずに手に入れたスキルなのかもしれない。
スタバのコーヒーを片手に店内を出た。
後ろの男性が店員さんに「トールとグランデってどっちが多いんでしたっけ?」と聞いている。
「スタバでスマートに注文できないとオッサン」説を新たに提唱したいと思う。
文:ペル・ワジャフ准教授
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