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2018.11.28

時計

“地球からの預かりもの”を道具へと調理する、製硯師とラドーの共通点


先駆けてセラミックスを外装に用いるなど、時計界に革新的な風を送るラドー。その在り方は、各界で異彩を放つイノベイターと共通するものがある。
5回にわたって、そんなイノベイターたちに「クリエイティブ」についてインタビュー。5人目は……
青栁貴史 Takashi Aoyagi
1979年東京都生まれ。青栁派四代目製硯師。二代目の祖父・保男と三代目の父・彰男に作硯を師事。代々経営する浅草の書道用具店、宝研堂内に工房を構える。硯となる石探しに、命がけで秘境を巡ることも。大東文化大学文学部書道学科非常勤講師。著書に『硯の中の地球を歩く』(左右社)など。
新たな価値の創造は、イノベーションに欠かせない要素のひとつだ。例えば、セラミックスの分野で時計界の先頭をひた走るラドーが世に生み出したセラモスという先進素材。古来、人類が親しんだ“陶”の技術から生まれるセラミックスにメタルを融合することで、そのどちらにもない輝きと相互補完による品質の向上を成し遂げた。
翻って硯(すずり)の世界。毛筆文化を唐の時代より担い続ける道具だが、その製作で硯に新たな価値を生む男がいる。青栁貴史さんだ。硯の師でもある父が命名した「製硯師(せいけんし)」を継承する。
「私の場合、日本の伝統的な硯職人とは少し意味合いが違います。あえて定義すれば、“硯についてなんでもできる技術者”。作硯もしますが、時代や土地ごとに異なる硯について、あらゆる角度から研究もしています。硯の修復や再現にも役立つだけでなく、何より現代に生きる我々にフィットする硯がどんなものかを探求するうえでも欠かせません」。
青栁さんが作った硯。右は、明代を代表する長方淌池硯。左は、清の時代に流行した吉祥図案入り。中央が、青栁さんの考える現代的な硯。「自然の造形を活かして、刃物を入れずに削った」とのこと。自然が生んだ質感が美しい。
人呼んで「硯ハンター」。青栁さんはしばしば、材料となる石の探索をするために、日本や中国の山奥へ旅に出る。そして、探し出した石に適した硯を生み出すべく、常に感覚を研ぎ澄ませている。
「硯は、地球からの預かりものです。何万年もかけて地球が作ってきた石を、いっとき僕らが硯に調理しているだけ」と語るように、自然との調和を強調する。「毛筆の道具に使われるのは、毛を束ねた筆、石を削った硯、木の繊維である半紙、植物の煤(すす)からなる墨と自然材料だけ。手書きの温かみも現代の感性にぴったり。毛筆文化の素晴らしさを、もっと世の中に広めていきたいですね」。
宝研堂内の工房にて。「この道20年。石と自然体で向き合うのには、長い時間がかかりました。力は使いますが、筋トレは不要です(笑)」。
そして、優れた道具という意味において、ラドーの時計にも共感する。
「セラミックスの質感と造形に、使う人のことを考慮した道具としての完成度の高さを感じます。僕は石を、ラドーはセラミックスを、ともに自然のものを調理する点が似てますね」。
硯に新しい可能性を探る青栁さん。その作務衣姿にラドーと硯石が見事な調和を見せる。和洋折衷の粋な姿で見せた笑顔が印象的だった。
 

お互い“地球からの預かりもの”を道具へ調理していますね

ローズゴールドカラー セラモスケース、41mm径、自動巻き。24万円/ラドー(スウォッチ グループ ジャパン 03-6254-7330)
ダイヤマスター セラモス オートマティック
「セラミックス90対メタル10」という、ラドーの独自配合により生まれる特殊素材セラモスをケースに採用した最新作。アールのついたお椀型のサイドビューにより、その輝きも強調。
「肌への接触面が少ないために、着用感が快適。メタル特有のひんやり感もないのがいいですね。ケース裏のアール形状に刺激を受けました。こんな硯を作りたいな」と作硯への意欲が掻き立てられた様子。
「傷の付かないゴールドカラーも美しい。スーツ姿の右手にこの時計を装着、その手に小筆を持ってさらりと一筆したためたら、最高に格好良くないですか?(笑)」。
 
[問い合わせ]
スウォッチ グループ ジャパン(ラドー)
03-6254-7330
www.rado.com
 
星 武志(エストレジャス)=写真 石川英治(Table Rock. Studio)=スタイリング 髙村将司=文

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