OCEANS × Forbes JAPAN Vol.76
2021.09.16
LIFE STYLE

「人の縁」で地方創生。三重のスーパーシティ特区にできたVISONとは

当記事は「Forbes JAPAN」の提供記事です。元記事はこちら

東京ドーム24個分の土地に、さまざまな施設が集まった商業施設「ヴィソン」

大事なことなのに、使いまわされて食傷気味になる言葉がある。SDGsやLGBT、サステナビリティ……。地方創生もその一つだ。

自分の住む町の議員投票に参加しない人が多いなか、どうしてゆかりのない土地に関心が持てるのだろうか。体のいい言葉でなく、実体を知りたいのが忙しいビジネスパーソンの本音ではないだろうか。

段階的に開業していた日本最大級の商業施設が三重県多気町に完成した。三重県のほぼ中央に位置する多気町は、豊かな自然で周囲を囲まれている。それでいて、熊野古道や伊勢神宮といった観光地にもアクセスが良い。東京ドーム24個分のスケールで登場したのが今回のヴィソンだ。

「日本最大級の商業施設」。これまでも幾度となく聞いたフレーズであり、地方に箱モノをつくって安心を得る。過去の事例が頭によぎった。地方創生には、「土地・食」「体験」「人」が必要ならば、土地においては申し分のない広さを持ち合わせているのだろう。

しかし、このヴィソン、踏み込んで調べてみると様子が違った。

施設には多くの木材が使用されているという。式年遷宮で伊勢神宮が新しい社殿を建てるように、ヴィソンでも20年ごとの修繕が行われるためだ。いっときの派手な演出ではなく、40年後、60年後、120年後と続く施設であることが示されている。

そして、スーパーシティ特区としての役割を担うという。また、「ミナ ペルホネン」「D&DEPARTMENT」「くるみの木」といった、個性ある暮らしに寄り添うアイテムを扱うショップが集うと聞いて驚いた。ヴィソンには何があるか、実際に訪れてみた。

「日帰り利用」という限界を超えたい

日本の多くの地域にとって、「地方創生」は無視できないキーワードだ。しかしながら、言葉だけが一人歩きして、一向に進まない、またはうまく行かない地域も少なくない。

ここ、多気町も、豊かな自然を有しながらも若年層の都市部への流出が課題となっていた。また、熊野古道や伊勢神宮に通ずる町ではあるものの、日帰り利用が多かったという。

この課題に挑むべく、多気町・久保行央町長が、「アクアイグニス」代表取締役立花哲也氏に相談を持ちかけたのが2013年。立花氏は、癒しと食をテーマにした複合温泉リゾート施設(アクアイグニス)を三重県菰野町に開業し、注目を集めていた。

「薬草と地元の農産物を使った施設をつくって欲しい」、久保町長の言葉からプロジェクトが動き出し、アクアイグニス(東京・中央)とイオンタウン(千葉市)、不動産ファンド運用のファーストブラザーズ、ロート製薬の4社の合同会社により、VISONが誕生したという。

町長の希望した薬草は、三重大学とロート製薬が薬草風呂を共同開発することで形になった。温浴施設「本草(ほんぞう)エリア」だ。VISON独自に調合した薬草湯が5日ごとに変わる「七十二候の湯」と、古来より親しまれてきたヨモギや、三重県の自然の恵みがつまった温州みかんの皮、ビワの葉などを使用した露天風呂「薬草の湯」、そして「鉱石の湯」が、訪れた人を癒す。

宿泊機能も充実している。プライベートヴィラおよびホテルタイプの客室を持つ「HOTEL VISON(ホテルヴィソン)」と日本的な風流が感じられる「旅籠ヴィソン」が客人を待っている。プライベートヴィラは全6棟あり、1棟ごとに季節を表す名称を冠し、露天風呂と外居間から「現代的な和」を感じ取ることができる。

全棟から望める雄大な山の緑は圧巻だ。全155室を用意したホテルタイプの一部客室では、客室内と同面積のテラスを設けられている。こちらもまた、大自然を感じながら露天風呂や食事が堪能できる。4棟からなる全40室の「旅籠ヴィソン」でも、1棟ごとに異なるデザイナーが客室を演出しているため、選ぶところから楽しめるだろう。

NEXT PAGE /

「地元にこだわった素材を扱うお店が多く集った」と立花氏は振り返る。

「産直市場のマルシェ ヴィソンでは、ナショナルチェーンのお店は導入していません。三重という地域を意識した店舗が中心です。例えば、松阪牛の『若竹』は、多気町で松阪牛を飼育する竹内牧場の直営精肉店です。一頭一頭大切に育てている牛の生産者ではありますが、今回は精肉店としても出店しています。

三重県で唯一の底引き網漁船・甚昇丸で水揚げされた深海魚の販売・料理を提供するのが『第十八甚昇丸』。これまで、水揚げされた海産物は、三重の市場で安値で買い取られ、東京・名古屋などで高値で販売されていました。

ですが、今回、甚昇丸で仲買人の権利を取得し、三重の市場で自ら買い取りができるようになりました。地元で獲れた魚を地元で販売できるようになったんです。また、マルシェで売れ残った魚や野菜市場で余った食材は、施設内で再利用。食品ロス0の取り組みを行っています」

スペシャルティコーヒー専門店である猿田彦珈琲のカフェや山形のレストラン、アル・ケッチァーノの奥田政行氏が監修した農園レストラン、関西屈指の品揃えを誇るアウトドアショップのOrangeと、個性あふれる店舗も揃っている。1日でまわりきれないため、やはり宿泊施設は必要だ。

ハイブリッドな「スーパーシティ特区」

VISONは、こういった著名店舗を集めるだけでは止まらない。多気町をはじめとした、大台町、明和町、度会町、大紀町、紀北町と連携することで、地域課題を解決するためのスーパーシティ特区としての役割も担っている。

VISONそのものがグリーンフィールド・ブラウンフィールドのハイブリッドな形となり、施設内での自動運転、モビリティ、自律式ドローン、遠隔医療クリニック、キャッシュレス・地域通貨といった先端的サービスが導入される。

また、これらを一つのIDで管理する「One-ID」データ連携基盤を活用。地域住民や観光客がこのIDを使って、各種サービスを体験できるのだ。また、そのノウハウは、連携する6市町に展開され、地域住民の利便性の向上や地域活性化につなげる。

「One-IDは様々な可能性を秘めています。町民がお風呂を割安で活用できたり、健康データの蓄積にも活かせます。町民の健康維持や病気の早期発見は、とても重要なこと。

今回、ヴィソンに入ったMRT社では、約7万人のドクターが登録され、遠隔医療サービスを提供しています。ワンボックスカー内に遠隔医療ができる設備を導入し、病院に来られない方々の家に訪問して医療を提供することもできます。

また、今後は、海外の方も多くいらっしゃるかと思いますので、海外の医療機関と連携し、海外の先生がオンライン診療できるような環境も構築できればと思います」(立花)

現在は実証実験中ではあるが、自律走行する移動式ゴミ箱を周回させることも視野に入っている。また、1人乗りのパーソナルモビリティー「GOGO!」は、アプリをダウンロードしてQRコードをかざせば走り出す仕組みだ(要普通免許)。

NEXT PAGE /

広大なVISONの敷地内には、陶芸家で造形作家の内田鋼一氏が世界中から探した調理道具を展示する「KATACHI museum」がある。内田氏は萬古焼をテーマとした美術館「BANKO archive design museum」を2015年に四日市市に立ち上げた人でもある。VISONのテーマにもある“食”から導かれ、食に関する道具のためのエリアとして「KATACHI museum」が始まった。

「通常のミュージアムだと順路があるのですが、ここではそのようなものがありません。また、紀元前のものなど貴重なものはショーケースに入ってるものですが、フィルターを通さずに見て欲しい思いから、そのまま掲示している。当然、触れてもらってはいけないのですが、間近で見てもらうことで様々なものを感じ取ってもらいたいです。

世界各国の食にまつわる道具は、ただの道具ではありません。アート的な観点、彫刻的な観点、美術的な視点で見ると面白いんです」(内田)

VISONの建物全体もそうだが、ここのミュージアムでは「雨を風景化する」というコンセプトを表現している。土壁でできたミュージアムは、雨樋が用意されていないため直接雨に当たる。すると、次第に朽ちてひび割れていくのだ。しかし、それがこの土地の気候に馴染んだ建物の表情へと変化すると捉える。

「森も緑も不便であるけど、そこを風景化する。この道具と一緒で、できた時が一番美しいというわけではないんです。経年変化があることで、意味合いがでてきたり、愛着がわいたりすると思います」(内田)

地域の「ロングライフデザインアイテム」を

箱モノを作って終わりの地方創生ではなく、ITを活用したサービスの拡充やミュージアムを作って知的好奇心を刺激するなど、VISONの取り組みは様々だ。D&DEPARTMENT、くるみの木、ミナ ペルホネンといった国内屈指の暮らしに寄り添うアイテムを扱うショップもここに参画している。

D&DEPARTMENT MIE by VISONでは、全国からセレクトした生活用品のみならず、三重県で作られる地域のロングライフデザインアイテムを発掘している。伊勢木綿・松阪もめんもその一例だ。

800点ほどのアイテムのうち6割が三重近郊の作り手のものだという。今後はワークショップや勉強会を開催して、三重のものづくりを広く理解していく。カフェスタンドを併設し、毎朝、スタッフがどら焼きを手焼きしている。材料も粉も型も全て三重のものだ。「KATACHI museum」の内田氏の声かけで、出店となった。

続いて、奈良を拠点に、ていねいな日々の暮らしを提案しているカフェと雑貨の店「くるみの木」だ。今回は、「くるみの木 暮らしの参考室」として展開しており、ミュージアムの機能も有する。

「手仕事の美しさやあたたかさ、自然素材に毎日ふれる健やかさ、用と美を兼ね備えたデザインの使いやすさ、そして、良いものを長く使う大切さ」が体験できる場となっている。くるみの木代表の石村由起子は、出店をこう語る。

NEXT PAGE /

「内田さんにお声かけいただいて、三重に通うようになりました。“美しい村”というその名前の通りの村になって欲しいです。ただ、山を切り崩している部分は気になっております。そこは、良きお店と良きお客様がここに集い、お店側が気持ちの良い場所を作ることができれば、伊勢の神々も迎え入れてくださるのではと思います」(石村)

「多くの気(いのち)を育む場所」

最後に、ミナ ペルホネンだ。手作業の図案によるオリジナルデザインのテキスタイルが人気で、VISONではミュージアムとショップを展開する。原画やプロダクトと共にものづくりの過程や背景、デザインに込められた想いなどをミュージアムで堪能することができる。デザイナーの皆川明氏の解釈はこうだ。

「洋服は完成させたものをご覧になって購入いただきます。今回のミュージアムでは、ものづくりの背景や込められた思いを表現しています。展覧会の巡回はこれまでやっていますが、ショップとミュージアムが常に一緒にあるかたちは今回が初めてです」

「ミナペルホネン」デザイナー皆川明氏

「ファッションの世界では、大量生産や大量廃棄といった、様々な構造的な課題を抱えています。それが、着る人が作る人の背景を理解したり、作る側もそのこだわりを丁寧に着る人に伝えることで、少しでも長く愛用していただくことに繋がるのではと思っています」

「私も皆さん同様に内田さんとの繋がりからお誘いいただきました。日頃から親しくさせてもらっている皆さんと、こうやって同じ場所でショップを出すことは初めてなのかなと、そういう意味でも楽しみでおります」(皆川)

デザインされたホテルや風呂といった、箱モノでの地方創生はこれまでにもあった。理屈から考えると、多くの地域が必要と感じるコンテンツである。しかし、そこに止まらず、地域課題も解決するスーパーシティ特区としての立場を表明し、新しい村を作っていくのが多気町だ。

ただ、これもDXが一般化した昨今では、コンサルからも提案しやすいコンテンツである。豊かな山海の幸に恵まれた三重県ではあるが、そのほぼ真ん中に位置する多気町は、緑あふれる町となっている。そして、その文字のように、古来より「多くの気(いのち)を育む場所」と言われてきた。内田氏を中心に個性的なショップがこの地に集まったのも、“気の流れ”があったからかもしれない。

ここに地方創生のヒントがあるのかもしれない。非科学的な分析では身も蓋もない話となってしまうが、より多くの“気”を感じ取れる世界観が、VISONにはあった。人が人を呼ぶというシンプルな構図が、成功への一歩となるのかもしれない。

 

上沼祐樹=文 石井節子=編集

記事提供=Forbes JAPAN

# フォーブス# ホテル# 三重
更に読み込む