佐賀県の東端に位置する鳥栖。町の中心部を見渡す高台に、その家は静かに佇んでいる。
家主であるR.K.さんは一風変わった家造りをしたそうだが、果たしてその真意とは。
“中身”から揃える常識破りの家造り
「静かに」と書いたのは文字どおりの表現である。広い敷地の中ほどに建てられた平屋だから、外からその様子をうかがい知ることは難しいのだ。
玄関までのスロープを含め、敷地の外周は多種多様な植物に囲まれている。そのことも、シークレットな印象を醸し出す要因になっているのかもしれない。いざ中へ。2016年に竣工されたR.K.さんの家は、約4年という時間の経過とともに周囲の植栽と美しく馴染んでいた。
「家を建てようと思ってから完成までは、およそ6年ほどかかったと思います。ただそのうちの2年は家具探しの時間でした。
実は、一般的な家作りとだいぶ順序が違うんです。まず自分の好きなインテリアをひと通り揃えました。そのあとで、集めたインテリアにマッチする家を造ったということなんですよ」。
だいぶ、というよりまったく順序が違う。つまり中身を揃えてから外側を作ったのだ。
だが改めて考えてみると、自分好みのインテリアが先にあり、それらが美しくレイアウトされ効果的に機能する家を造るというのは、確かに理にかなっている。LA、NY、オーストラリア、バリなど世界中を旅しながら集めたインテリアの数々。
その“宝探しの旅”には、多岐の活躍で知られるスタイリストの熊谷隆志さんが同行した。
「熊谷さんとはサーフィンを通じて知り合いました。“家を作りたい”と相談したところ、“だったらまずは家具を集めよう”ということに。最初の盛り上がりのままに世界への旅がスタート。といっても、サーフトリップを存分に楽しみつつの旅ではありましたが」。
家具が集まったら次はいよいよ家造り。イメージはミッドセンチュリー。そして「ロマが家を建てたらこんな感じ」というノマド的な雰囲気も持たせたかったという。
設計は地元のデザイン事務所、テトラデザインに依頼。実はR.K.さんの幼なじみなんだとか。
「著名な方にオーダーするのは違うなと。建てたい家のイメージが明確にあったので、デザイナーの個性や色は必要ありません。とはいえ設計や構造に関しては素人ですから、その点に関する的確なアドバイスは欲しかった」。
既成概念にとらわれることなく、自分の思いを犠牲ににしない家造りを貫いた。もちろんその住み心地は「何の文句もありません(笑)」とのことである。
2/2