中目黒の目抜き通りに位置するワコマリアの旗艦店。カフェを併設した店内はどこか怪しく、温かさと洗練が入り混じった独特の空気が漂う。
そこで待っていたのはデザイナー森 敦彦だ。
渡辺 今日はよろしく。早速だけど、店名の「パラダイス トウキョウ」にはどんな意味が?
森 そのまんま、東京がもっとパラダイスみたいになればいいなって。街自体は少しずつ変わっているけど、僕らが若い頃に予想したほどカッコ良くなったかというと、違う気がしていて。
渡辺 その感覚はよくわかる。
森 もっとカッコ良く、もっと面白く。僕はそれを目指しているし、東京もそういう街になってほしいんです。
渡辺 それにしても、森の服に対する情熱はいくつになっても変わらないね。
森 そう言ってもらえてうれしいです。
渡辺 自分の感覚を信じる強さというか、負けん気の強さがあるよね。初めて会ったときのこと覚えてる?
森 あのときは、僕が働いていたバーで、酔って腕相撲したんでしたっけ?
渡辺 そう。で、僕が勝った(笑)。
森 え〜、そうでしたか?
渡辺 ほら、もう負けず嫌い! そういう気の強いところが森らしいね(笑)。
森 でも、こう見えて意外と、人の意見もしっかり聞こうと思っていますよ。
渡辺 あ、そうなんだ!
森 だって、自分だけのことばかり優先していたら楽しくないですもん。
渡辺 なるほどね。だから森の周りには人が集まるのかもしれない。
森 離れていくヤツもいます(笑)。
渡辺 好き勝手しているようで、周りの意見も柔軟に取り入れる服作りには、ただのモノだけで終わらない価値が宿る。だからブランドのファンも増えていく。正直、うらやましいよ。
森 偶然だと思いますよ。
渡辺 そう言えちゃうのがズルい。とは言え、お正月にアロハシャツをリリースしたり、森はやり方が普通じゃなさすぎて、当初はブランドが長続きするのか不安もあった。でもきっと、たとえダメでも「ごめんね」って。それだけでみんな気持ち良く終わるんだね。
森 そのとおり!
渡辺 それでいて、クリエイションへのこだわりはすごい。今もプリントが狙いと1mmズレるだけで許せない?
森 イヤですけど、その辺はちょっと大人になって少し大きな視野で物事を見るようになりました。
渡辺 じゃあ、森にとってのタブーってあるの? もしくは、ないの?
森 う〜ん、愛がないことですかね。人にもモノにも、愛がなきゃダメ。
——愛がある人、服、場所。東京はもっと、面白くなるはずだ。若木信吾=写真 増山直樹=文