オーシャンズではもちろん、映画やテレビドラマなど、いつも“撮られている”平山祐介さん(48歳)が、時代を彩るスターたちを山ほど撮ってきた写真家、立木義浩さん(82歳)に会いに行った。それは、立木さんに聞きたいことがあったから。
「人を撮る楽しさ」について聞いた前回に続き、今回は撮ってきた人の中で最も印象的だった“あの人”の話から。
偶然生まれた勝新太郎と中村玉緒の夫婦写真
平山 これまで錚々たる人を撮られてますけど、特に印象に残ってる人は誰ですか?
立木 勝新太郎さんと中村玉緒さんだね。
平山 これですよね。ほんと、いい写真。
立木 玉緒さんが慣れてないのよ、こういうことに。夫と一緒の写真なのにね(笑)。なんとも言えない表情してるよね。
平山 撮ったのは仕事で、ですよね?
立木 うん、でもこれはオフショットなんだよ。もともとは週刊誌の親子を撮る連載の仕事でさ。毎回フォーマットを決めて、カメラ目線で主役は左側にいてもらったんだけど、勝さんを息子さんと撮ろうとしたら「こっちがいいんだ!」って逆に立つんだよ(笑)。もう何十人もそれでやってきてんのに、仕方ねぇなと思いながら撮ってさ。
平山 でも、なんで中村玉緒さんが?
立木 一緒にスタジオに来てたんだよ。それでさ、言うこと聞かない仕返しじゃないけど、撮影終わってから「夫婦の記念写真撮りましょうよ、滅多にないでしょう?」って言ったんだ、俺が。イラっとしてるからちょっと高飛車にね(笑)。そしたら勝さんがグッとこう肩を抱いてね。
平山 にんまりした勝さんの顔もいいですね。この写真はテレビでも何度か拝見しました。
立木 玉緒さんが「写真いるんだったらこれ使ってください」って言ってるらしいのね。でさ、こういうのを見て思うのが、写真は侮れないなってこと。ふと撮ったものが、あとになって良くなってくるっていうか、時代が育てるっていうかさ。大勢に見られることでますます評判を呼んで魅力を増すんだよ、卵が孵化するみたいに。
平山 時代が育てる、ですか。今回、上野の森美術館で開催する写真展も「時代」というタイトルですね。それこそ時代を彩った名作がずらりと並ぶんでしょうね。
立木 いやいや、名作展じゃないよ。だから、おっきいのをドーン、ドーンみたいなことはしない。約700点展示するんだから。
平山 えっ、700点っ!?
立木 そう。会場が2フロアで、1階はポートレイトで2階はスナップ。昔のものはネガをスキャンしたり、プリントをデータ化してさ。デジタルは簡単だと思ってたらとんでもない。もうひっくり返っちゃったよ。
平山 ポートレイトの人選は立木さんがされたんですか?
立木 「この人がいい!」って言っても許可が出ないとダメだからね、みんなで相談しながら決めたんだけど、これがまた大変でさ、本人まで辿り着かないから。武さん(ビートたけし)もそうだった。初めはいろいろあったけど、ご本人に伝わったら「あーこれね、OKOK」って言ってたらしいよ。肖像権なんてない時代に展覧会やりたかったな(笑)。そういう意味でも、こんな規模の展覧会はこれが最初で最後かな。
平山 すでに、もうやらない宣言(笑)。じゃあ、なおさら貴重な機会になりますね。僕ら世代だと知っている作品もたくさんあるだろうし。
立木 1枚ずつ見る気があったら面白いと思うよ。「全部見た人はいない」で終わる可能性もあるけど(笑)。でも、気になる写真の前で立ち止まったりしてくれる人を目撃できたら嬉しいなぁ。この写真がお好きなのね、と、声かけたくなっちゃう(笑)。
どんなカメラも面白いから、文句言う前に使ってみる
平山 ところで、立木さんは機材にはこだわらないんですか? そこに使い捨てカメラも置いてありますが。
立木 どんなカメラでも撮るよ。っていうか、どんなカメラも面白い。ちょっと使いにくいなと思ってもさ、それに寄り添うのがプロだから。文句ばっか言ってるやつもいるけど、その前に撮れよって思うね。
平山 (笑)。
立木 文句言う情熱があるんだったらさ、そいつをよしよしって働く方法を考えるべきだよ。そのほうが楽しいよ。モデルなら衣装がそうなんじゃない?
平山 はい、衣装で気持ちのスイッチが入るってのはもちろんあります。でも、同じ使い捨てカメラで撮るにしても、僕と立木さんの写真で何が決定的に変わるんでしょうか。
立木 あんま変わんないと思うな。ただ、ちょっと注意してるかどうか。例えば、フラッシュがどれくらいの距離でどうなるかってのを知ってたり、意識できるかくらい。でもね、写真撮るのに、いちいちモニター見るのはいただけないな。1枚撮るごとに見ては消してってさ。いいか悪いかをその場で判断なんてできやしないよ。
平山 撮られる側もそれは思います。今はデジタルだから撮ったその場からスタッフ全員がモニターで見れるんですけど、僕はなるべく見ないようにしています。なんか想定内の写真しか出てこなくなる気がして。
立木 そうだよね。スイッチが切れてるときにいい写真が撮れることもあるしさ。
平山 そういう意味では、友達と「よーし写真撮ろうぜ」っていう、それこそスナップ写真あるじゃないですか。あれ、めちゃくちゃ恥ずかしいです。いつもは散々撮られてますけど、あれは苦手で……。
立木 あー、そう。
平山 ダメなんですよ。だからちょっとふざけた顔とかしちゃいます。すっごい恥ずかしいですね。
立木 明治、大正、昭和の初めの骨のある人はさ、大抵みんな恥ずかしがりやで、人生にハニカんでた。カメラ向けると愚直に「どうにでもしろ」みたいなさ。でも、そういう人は存在がもう抜群に格好いいからさ、こっちがどこを撮るかっていうアンテナがちゃんとしてないとダメ。いいときを逃しちゃう。
平山 ところで立木さん、撮られるのってどうですか?
立木 得意じゃないね。恥ずかしい。だからね、撮られるときはいつも早く終わってほしいんだ(笑)。
対談が終わり、外に出た祐介さんは、「面白かった」と呟きつつ、「立木さんはモテるだろうなぁ」と言った。話に引き込まれるし、チャーミングだし、自然と心を開いてしまう。“撮られる側”としては、まんまと“撮る側”のフィールドにハマってしまう。その魅力をもっと探るために、「700枚の写真を全部観に行きます」と、写真展への訪問を決めていた。
時代 –立木義浩 写真展 1959-2019−1958年、21歳でデビューしたカメラマン、立木義浩。その60年にわたるキャリアを追う写真展。2層構造になった会場は、1階にポートレイト、2階をスナップでまとめ、700点の作品を見せる。誰もが知っている“あの有名人のあの写真”など、「これも立木義浩だったのか!」と、会場を歩くたびに驚くはず。
会場:上野の森美術館(月曜休館)
期間:5月23日(木)〜6月9日(日)開館:10:00〜17:00(金曜は20:00まで)http://tatsukiyoshihiro.jp 飯塚ヒデミ=写真