連載「オトーチャンの子育てコーチング塾」
子供を持つ父親なら知っておきたいのが「子育てコーチング」という概念。子供の自主性や主体性を伸ばすと言われており、ママたちもこぞって学び子育てに取り入れているらしい。これは今すぐにオトーチャンも習得したい! ということで、『アドラー式子育て 家族を笑顔にしたいパパのための本』などの著者・熊野英一さんを講師に招き、オトーチャンのための特別子育てコーチング塾をスタート。
オトーチャンらに子育てに対する率直な悩みを聞いてみると、「そもそも仕事が忙しくて子供と接する時間が少ない」というリアルな声が。そのせいか、妻や子供からはこんな仕打ちを受けてしまうオトーチャンも。
「『参観日のときだけ良いパパぶってずるい』と妻に言われた」(43歳)
「妻に代わって子供を寝かしつけようとしたら『ママー、ママー』と泣かれた」(40歳)
そんなトホホなオトーチャンにこそ、取り入れてみてほしいのが「アドラー心理学を基礎としたコーチング理論」だと言うのは熊野英一さん。
アドラーの心理学を基にしたコーチングを伝えるプロフェッショナルで、数々の著書やコラムを執筆するほか、子育てサロン「bon voyage 有栖川」を運営している。
子育てに悩める多くの夫婦のサポートをしてきた熊野さんにしてみれば、「忙しくて時間がないパパこそ、短い時間でも有効なコーチング理論を実践してみてほしい」とのこと。
その要は何と言っても「共感すること」にあるという。それはコーチングにおいて、対妻、対職場の同僚、対子供など相手が誰であっても変わらない法則なのだ。
上から下に押さえつける子育てはなく、「共感ファースト」で対等な関係を
「共感ファースト」とはどういうことなのか。具体的な事例から考えてみよう。
「小学4年生の娘が、スマホを持ちたいと言ってきた。親としてはスマホばかり見るようになるのではないか、有害サイトにアクセスする危険はないか、友人間でのSNSトラブルになることはないかと不安だ」(44歳・10歳の娘のパパ)
こんな場合、どうすればいいのだろうか。いちばんやってはいけないのは、頭ごなしに『まだ早いからダメ』と完全に否定することだという。では正解は……?
「『なんでスマホを持ちたいの?』と投げかけて理由を聞くのが最初のステップですね。すると子供なりに『みんな持ってるんだよ、待ち合わせもスマホでやりとりするんだよ』など言ってくるでしょうが、そのうえで『なるほどね。教えてくれてありがとう』と共感するのが次のステップ。そして最後に『でもパパはこう思ってるけどどうかな』とリスクや懸念点を伝えて子供に自分で考えさせる機会を与えるんです」。
なるほど、「共感ファースト」のコミュニケーションは対等なのだ。とはいえ、コレってある程度大きくなった子供にしか通用しないことなのでは? と思ったが、そんなこともないそうで……。
「年齢はあまり関係ありません。3歳以上になれば、好き嫌いや自分の言い分が拙いながらに出来てくる。内容はともかく、その感情や子供なりの理由を受け止めてあげましょう」。
上から下に指導するのではなく、あくまで子供の意見に耳を傾けることが大切なのだ。このステップを端折らずにコミュニケーションをとることで、自立性・主体性を持った子供に育つという。
「共感ファースト」は1日にして成らず。実践してスキルを上げよう
だが、実践しようとしても、はじめはなかなかうまくできないのが「共感ファースト」だという。完璧主義な人だとつい相手にもストイックさを求めてしまったり、面倒臭がりな人だとつい適当に流してしまったり、コミュニケーションの癖が邪魔すると言うのだ。
「まずはコミュニケーションのシーンにおいて自分がどんな風に振る舞いがちか観察して振り返ってみるといいでしょう」と熊野さん。
”子育ては自分育て”とはよく言ったもので、まずは自分のコーチングができてこその子育てコーチングなのだ。次回からは具体的なシーンとともに、子育てコーチングとは何たるかを、掘り下げていくとしよう。
株式会社子育て支援 代表取締役熊野英一さんフランス パリ生まれ。早稲田大学卒業。メルセデス・ベンツ日本にて人事部門に勤務後、米国Indiana University Kelley School of Businessに留学(MBA/経営学修士)。製薬企業イーライ・リリー米国本社及び日本法人を経て、保育サービスの株式会社コティに統括部長として入社。約60の保育施設立ち上げ・運営、ベビーシッター事業に従事。2007年、株式会社子育て支援を創業、代表取締役に就任。日本アドラー心理学会 正会員。著書に『アドラー式子育て 家族を笑顔にしたいパパのための本』、『アドラー式働き方改革 仕事も家庭も充実させたいパパのための本』(ともに小学館クリエイティブ単行本)など。